アトピー性皮膚炎のスキンケア

アトピー性皮膚炎の治療では、 激しい症状のある時は、炎症に対する治療が優先されますが、皮膚の状態が落ち着いてくると、 日常生活の中で患者さん自身が習慣的に行う外用薬の塗り方とスキンケアの重要性が増してきます。 薬や保湿剤の効能を正しく理解して、その塗り方を習得すると、治療効果も上がります。 症状を悪化させる因子への対策も行いましょう。
「アトピー性皮膚炎」の治療では、薬物療法と皮膚をよい状態に保つための「スキンケア」が欠かせません。 スキンケアをしっかり行い、皮膚の乾燥を防ぐことによって、外用薬の治療効果を上げることができます。 皮膚には、細菌や有害な化学物質などが体内に侵入するのを防いだり、水分が失われるのを防いだりする「バリア機能」があります。 しかし、アトピー性皮膚炎の原因の1つである「ドライスキン」では、 皮膚が著しく乾燥し、バリア機能が低下するため、炎症が起きやすくなります。 このドライスキンに対して行うのがスキンケアで、アトピー性皮膚炎の治療の根幹ともいえます。


■アトピー性皮膚炎のスキンケアのポイント

アトピー性皮膚炎のスキンケアの中心は「入浴」と「保湿」です。

●入浴のポイント

まず、入浴で皮膚を清潔に保ち、皮膚に水分を与えます。 私たちの皮膚には、汗やほこり、カビなどが皮脂に交じって付いています。 アトピー性皮膚炎を起こしている皮膚を調べてみると、それらに加えて黄色ブドウ球菌がたくさん付いているのが見つかります。 これは、健康な皮膚に備わっている殺菌力が弱まっているためで、この細菌がアトピー性皮膚炎を悪化させる要因にもなります。 そのため、入浴やシャワーでこれらを皮脂と一緒に洗い落とすことがスキンケアの基本になります。 皮膚に炎症が起きているときは、できれば1日に2回は、湯船に浸かってもシャワーでも構いませんので、 泡立てた石鹸を使って洗い流し、清潔に保つことが勧められます。 汗や汚れが皮膚に長時間とどまると、湿疹を悪化させてしまうので、きちんと洗うことが大切です。 体を洗うときには、強くこすらないように注意してください。石鹸をよく泡立てて、手のひらでやさしく洗うようにします。 ただし、洗浄力の強い石鹸やシャンプーの使用は避けます。石鹸やシャンプーを使うのは1日1回までにし、よくすすぐことも大切です。 湯の温度が熱かったり、熱くない湯でも長く浸かっていたりすると、温めることによってかゆみが強くなりやすいだけでなく、 皮脂が溶け出して皮膚の乾燥が進みやすくなります。かゆみ対策のためにも、ぬるめの湯に短時間浸かるようにします。 また、刺激を感じるような入浴剤は、かゆみを増す原因になるので避けましょう。


●保湿のポイント

アトピー性皮膚炎の患者さんは、炎症の程度に関わらず、バリア機能が低下したドライスキン(乾燥肌)になっているため、 皮膚から失われた成分を保湿剤で補うことが不可欠になります。 入浴後は、皮膚の水分が急激に失われていくため、タオルで体の水滴を拭き取ったら、皮膚がみずみずしさを保っているうちに、保湿剤や外用薬を塗ります。 浴室を出たら5分以内に保湿剤を塗ることを習慣にするとよいでしょう。 保湿剤を塗ることで、水分が逃げないように皮膚に"ふた"をするのです。 5分を過ぎてしまった場合などには、お湯を入れた霧吹きで皮膚を湿らせた後に保湿剤を塗ると、効果が上がります。 保湿剤は、湿疹ができている部位だけではなく、広い面積に塗るようにします。 指先ではなく、手のひらで、体のしわの方向に平行に塗ると、皮膚に広がりやすくなります。 また、季節に関係なく、年間を通して続けることも大切です。 ステロイドなどの外用薬を使用している場合は、どちらを先に塗ってもかまいません。

◆保湿剤の種類

医師に処方された保湿剤は、安全性が高い、医師が効果などを把握しやすいといった長所がありますが、 市販されている保湿剤の中から使いやすいものを選んでもかまいません。 ただし、かぶれるようなことがあれば、他のものに変更し、自分に合ったものを見つけて塗布してください。 市販されている保湿剤の中には、以下のようなものがあります。

▼ワセリン
皮膚の表面に膜を作り、水分が蒸発するのを防ぎます。寒いと固くなるため、手のひらで温めると塗りやすくなります。 ベタつきやすいのが難点です。

▼尿素入り保湿剤
皮膚の乾燥や軽い炎症を改善させる効果があります。 乾燥の強いところや赤味のある部分に塗ると刺激があります。

▼セラミド配合保湿剤
セラミドを化学的に合成したものです。 尿素入り保湿剤と同様の効果がありますが、やや高価です。

◆外用薬の塗り方

ステロイド外用薬を塗るときの量は、FTU(フィンガー・ティップ・ユニット)という目安があります。 人差し指の先から第一関節まで外用薬のチューブから押し出した量のことで、成人の手のひら2枚分の面積に塗ることができます。 ローション剤なら1円硬貨大となります。FTUの薬を、薄く擦り込むように塗るのではなく、 炎症を起こして盛り上がっているところを覆うようなつもりで、外用薬を”載せる”ように塗るのがポイントです。


■日常生活の注意

アトピー性皮膚炎の方は、清潔で皮膚への刺激が少ない衣類を選ぶようにします。 ウール素材のものを着る場合には、皮膚に直接触れるとチクチクすることがあるので、木綿のシャツなどを下に着るとよいでしょう。 乳児のアトピー性皮膚炎の場合は、乳児に接する周りの人にも、皮膚に刺激の少ない素材の衣類をお勧めします。 また、夏など汗をかきやすい時期は、通気性のよいものを選ぶようにします。 新しい肌着は、使用する前に、一度洗濯するとよいでしょう。