アルコール依存症

お酒との付き合い方は適切ですか?
アルコール依存症は、飲酒をコントロールできなくなる病気です。 アルコール依存症は、誤解の多い病気で”大酒飲み”や”意志薄弱者”に起きると思われがちですが、 実は飲酒量が少なくても、高齢者や女性では、アルコール依存症に陥ることがあります。 アルコール依存症は本人の健康を害するだけでなく、家族、社会にも悪影響を及ぼします。 家庭や仕事を失ったり、全身の病気を招く前にアルコール依存症に気付きましょう。 どうなるとアルコール依存症なのか、スクリーニングテストでチェックしてみましょう。


■飲酒量とアルコール依存症

”1日に日本酒3合弱以上”で危険性が高まる

日本の「アルコール依存症」は、約80万人と推計されています。 アルコール依存症が疑われる人を含めると、その数は約440万人とされ、約20年前に比べ、約100万人増加しています。 従来、男性に多かったアルコール依存症ですが、最近は高齢者や女性にも増加しています。 アルコール依存症とは、「家庭や仕事、自分の健康などにより、飲酒をはるかに優先させる状態」のことです。 壮年男性で、1日の平均飲酒量がビールなら1500mL以上、日本酒なら3合弱以上、ウィスキーなら180mL以上である場合、 アルコール依存症を起こす危険性が高まるといわれています。高齢者や女性の場合は、これより少ない量で危険性が高まります。
飲酒習慣のある人の中には、「この程度の量なら飲むことがある、でも自分はまだ大丈夫」と思う人もいるかもしれません。 しかし、気付かないうちにアルコール依存症が進行していることもあります。 アルコール依存症が進むと、全身に影響がおよび、多くの病気が起こります。 また、社会生活においていろいろな問題を起こしたり、家庭が崩壊したりすることもあります。 そのため、できるだけ早くアルコール依存症を発見して、治療に取り組むことが大切です。


■アルコール依存症とは?

アルコール依存症の中心症状は「連続飲酒」と「離脱症状」

●連続飲酒

多くの人は「朝から飲まない」「仕事中は飲まない」など、飲酒する時や状況、飲酒量などをコントロールすることができます。 ところが、アルコール依存症の患者さんは、飲酒すべきでない時や状況でも飲酒したり、予定より大幅に飲むなど、 自分の飲酒の仕方をコントロールすることができなくなり、ついには「連続飲酒」を行うようになります。 連続飲酒とは数時間おきに飲酒を繰り返し、体内にある程度のアルコールが入った状態を何日間も続けることです。 この間、食事はほとんど摂らなくなります。なかには、容器に小分けしたアルコール飲料を持ち歩き、 周囲の人から隠れてトイレで飲むなど、仕事をしながら連続飲酒を行う患者さんもいます。 このような連続飲酒が起こるのは、精神的にアルコールに依存していて、「酔っていたい」という強い気持ちがあるからです。 また、酔うと緊張や不安が和らぐことが背景にある人もいます。


●離脱症状

飲酒して酔うのは、アルコールの影響で脳の神経細胞の機能が変化するからです。 健康な人の場合、この機能変化は一時的なもので、アルコールが抜ければ元に戻ります。 ところが、連続飲酒によって体内にアルコールが入っている状態が続くと、神経細胞にとっては、それが通常の状態となってしまいます。 その後、何らかの理由で体内にアルコールがない、あるいは量が少ない状態になると、神経細胞は、通常とは違うその状態に順応できなくなり、 さまざまな不快症状が起こるようになります。これが「離脱症状」で、「禁断症状」とも呼ばれます。 よく見られる離脱症状には、「手が震える」「多量の汗をかく(特に寝汗)」「いらいらする、落ち着かない、不安に感じる」などがあります。 「吐き気、嘔吐、下痢」などの消化器症状や、「頻脈」「高血圧」などがあります。 夜には、寝汗に加えて「寝つきが悪い、夜中に目が覚める」などが起こり、眠れなくなります。 また、「鬱状態」が起こったり、現実とは違う異なる声が聞こえる「幻聴」や、ないものが見える「幻視」が起こることもあります。 幻視では、虫や小さな動物が見えたりします。


●離脱症状と飲酒の悪循環

離脱症状の多くは、再び飲酒してアルコールが体内に入ると、解消します。 そのため、連続飲酒が進むと、今度は不快な離脱症状が出てこないように、飲酒するようになります。 こうして、飲酒の悪循環に陥り、アルコール依存症は悪化します。


■アルコール依存症の診断

過去1年間に、次の6項目のうち3項目以上が繰り返し起きた場合、あるいは、同時に1ヶ月以上続いた場合に、アルコール依存症と診断されます。

①飲酒への強い欲望や脅迫感がある
「飲酒したい」あるいは「飲酒しなければならない」という強い思いがあります。

②飲酒する時間、場所、量などをコントロールできない
飲酒すべきではない時や状況で飲酒したり、「1杯だけにしよう」と思っていても、つい多量に飲んでしまったりします。

③離脱症状
禁酒、あるいは飲酒量を減らしたときに、さまざまな不快な症状が起こります。

④耐性の増大(飲酒量の増加)
アルコールに強くなり、酔うために必要な飲酒量が増えます。飲酒を始めたころよりも多くの量のアルコールが必要になります。

⑤飲酒以外の娯楽の無視など
飲酒のことばかりが気になり、他のことを楽しむことができず、多くの時間を飲酒や二日酔いからの回復に費やしています。

⑥有害な結果があるのに飲酒
飲酒が原因で健康を害し、医師から飲酒を控えるように言われても、控えることができません。 社会的な問題を起こしているとわかっていても、飲酒をやめられません。

診断基準に当てはまる場合はもちろん、2項目だけがある場合、連続飲酒や離脱症状のどちらかある場合にも、 アルコール依存症が強く疑われますので、早めの受診が勧められます。 自分や家族のアルコール依存症が疑われる場合は、スクリーニングテストなどを活用して、早めに気付き、対処していくことが大切です。



■嫌酒薬について

お酒を飲んではいけない人や、お酒をやめたいが、なかなかやめられないと言われる方のために、「嫌酒薬」というものがあります。 医師の処方箋による薬で、シアナマイドやノックビンというのがありますが、 これらの薬は、肝臓でのアルコールを分解する酵素(アセトアルデヒド脱水素酵素)を阻害して、お酒の副作用である頭痛や、 吐き気のような症状を利用してお酒を嫌いにさせる薬です。この薬が効いているうちにお酒を飲むと、激しい苦痛に襲われます。 人によっては、肝臓機能障害が現れることがありますので、医師の管理のもとに服薬されることをおすすめします。