男性の尿漏れ

尿が漏れる」「尿が出にくい」といった男性の尿漏れは、 そのほとんどが「前立腺肥大症」などが原因となり、加齢とともに増える傾向にあります。 年齢によるものと諦めず、日常生活に支障を来す場合は、泌尿器科を受診して適切な治療を受けましょう。


■男性の尿漏れ

前立腺肥大症という病気が原因となっていることが多い
強い尿意を催して失禁したり、少量の尿が漏れ出てくる

男性の尿漏れは、女性に比べてあまり知られていませんでした。 しかし近年、高齢者の増加に伴って、患者さんは増加する傾向にあります。 日本排尿機能学会の疫学調査によると、日本では尿漏れを経験している男性は、約300万人いるとされています。 男性では加齢に伴って、 前立腺肥大症 という病気になる人が増えてきます。 男性の場合、膀胱のすぐ下には前立腺という生殖器があり、尿道を囲んでいます。 前立腺は通常、クルミくらいの大きさをしており、20ml程度の容量があります。 男性の尿道は16~20cmあり、女性に比べて長いのが特徴です。 尿道の周囲には、排尿の最後に尿道を圧迫して、尿道内の尿を体外へ出す働きをする球海綿体筋があります。 男性の尿トラブルは、前立腺が肥大することでさまざまな症状が現れてきます。 「尿が漏れる」「尿が出にくい」など、男性の尿のトラブルは、ほとんどがこの前立腺肥大症が原因となっています。 前立腺肥大症は主に加齢によって起こり、患者さんの大部分を高齢者が占めています。 厚生労働省が行った平成23年の患者調査では、前立腺肥大症で医療機関を受診した人は約12万人で、そのうちの約36万人が65歳以上の高齢者でした。 受診していない人もいるため、実際の患者数はさらに多いと考えられます。 前立腺肥大症では、排尿に関わるさまざまな症状が現れます。「国際前立腺症状スコア」は、前立腺肥大症の症状の程度を調べるものです。 当てはまる症状が多い人ほど、重症度が高いと判定されます。


■男性の尿漏れのタイプ

男性の尿漏れには、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、排尿後尿滴下があり、それぞれ次のような特徴があります。

●切迫性尿失禁

尿がまだ十分溜まっていないのに、膀胱が勝手に収縮してしまう過活動膀胱が主な原因で起こります。 過活動膀胱があると、急にトイレに行きたくなる尿意切迫感や、トイレが近くなる頻尿、さらには切迫性尿失禁に繋がります。 過活動膀胱の原因には、主に中枢神経の病気、前立腺肥大症、メタボリックシンドロームがあります。

▼中枢神経の病気
脳血管障害(脳出血、脳梗塞)やパーキンソン病、脊髄損傷などの脊髄疾患などが関係しており、 排尿をコントロールする脳の中枢神経と膀胱の連携がうまく機能しなくなります。 そのために、膀胱が勝手に収縮することで、尿漏れが起こります。

▼前立腺肥大症
加齢に伴い前立腺が肥大する、男性特有の病気です。前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、尿が出にくくなります。 そうなると、膀胱壁が過剰に伸びたり、膀胱内に強い圧力がかかって膀胱壁が圧迫され血流が悪くなります。 その結果、膀胱の筋肉や神経の機能が障害され、過活動膀胱が起こります。 また、肥大した前立腺が尿道を圧迫すると、尿道の知覚神経が過敏になって過活動膀胱が起こります。 このように、男性の場合、前立腺肥大症に過活動膀胱が合併して、尿漏れが起きていることが多くあります。 前立腺肥大症の患者さんで過活動膀胱を合併している人は、50~75%いるという報告があります。

▼メタボリックシンドローム
近年、内臓脂肪型肥満に加えて、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病やその予備軍の状態が複数重なって起こる メタボリックシンドロームが、 過活動膀胱に関係していることがわかってきました。メタボリックシンドロームがあると、動脈硬化が起こるため、 膀胱に血流障害が生じるだけで、過活動膀胱になると考えられています。

●溢流性尿失禁

主な原因は、重度の前立腺肥大症です。 肥大した前立腺で尿道が圧迫されるため、尿の出が極端に悪くなり、常に大量の尿が膀胱内に溜まっている状態になります。 膀胱に尿が溜まりすぎると、尿がちょろちょろと漏れ出てしまいます。 溢流性尿失禁を放置していると、腎臓の機能に悪影響を及ぼす恐れがあるので、早期に治療する必要があります。

●排尿後尿滴下

主な原因は、尿道収縮力の低下です。通常は、排尿の終わりに尿道や尿道周囲の球海綿体筋が収縮することで、尿を排出します。 尿道収縮力が低下すると、尿を出し切ることができず、排尿後に浸み出てきます。 尿道収縮力の低下は、加齢などが原因と考えられ、病気とまではいえません。 50歳以上になると15~30%が経験しているという海外の報告もあります。 また、男性の尿道は長いため、途中で尿が滞留しやすい構造になっていることも、排尿後滴下の原因の1つになっています。


■前立腺肥大症

●前立腺肥大症の仕組み

前立腺は膀胱の出口部分に位置し、通常、クルミほどの大きさです。精液の一部となる前立腺液を分泌する臓器ですが、 排尿にも深く関わっています。排尿するときには、尿道を締めたり緩めたりする2つの括約筋と前立腺が協調し、 尿道を開いて尿を排出します。前立腺は「内腺」「外腺」という2つの領域に分けられます。 前立腺肥大症では、尿道に接する内腺が肥大するため、症状として尿トラブルが現れます。


●前立腺肥大症に伴う症状の変化

症状の現れ方は、大きく3段階に分けられます。初期の症状は、膀胱が過敏になって起こるものが中心です。 ”排尿したくて仕方がない”というような強い尿意がよく起こります。 昼夜に関わらず排尿回数が多くなる「頻尿」もよく見られます。 尿意切迫感に続いて、少し尿が漏れてしまう「切迫性尿失禁」が起こることもあります。 もう少し進行すると、「残尿」が現れます。前立腺の肥大に伴って尿道が圧迫され、尿を排出しきれなくなるためです。 排尿時の尿の勢いもなくなり、途中で止まってしまうこともあります。 さらに進行すると、スムーズに排尿できなくなり、ほとんど尿が出ない状態になります。 膀胱がいっぱいになって尿が漏れ出る症状が現れることもあり、これを「溢流性尿失禁」といいます。


●前立腺肥大症の検査

前立腺や尿の状態などを調べ、肥大の程度を確認する

前立腺肥大症は良性の病気なので、日常生活に支障がなければ、必ずしも治療の必要はありません。 ただ、お腹に力を入れないと排尿できなかったり、残尿が多い場合には、治療を受けることが勧められます。 尿が膀胱内に常にたまっていることで、尿路感染を起こしたり、腎機能が障害されたりする危険性があるからです。 泌尿器科を受診すると、次のような検査が行われます。

▼問診
患者さんから症状を聞き、国際前立腺症状スコアなどを使って、おおよその重症度を判定します。

▼直腸診
医師が手袋をして患者さんの肛門に指を入れ、直腸の壁越しに前立腺に触れて、大きさや硬さを確認します。

▼超音波検査
前立腺を画像に映し出す検査です。画像から前立腺の体積をかなり正確に把握することができます。

▼尿流測定
尿を感知するセンサーが付いた便器に排尿し、尿の勢いや排尿に要した時間を調べます。 結果はグラフで表されます。正常な人の排尿では、最初に尿の勢いがあって、短時間で終了します。 それに比べ、前立腺肥大症の人では、勢いが弱いままで排尿に時間がかかります。

▼残尿測定
排尿後に、超音波を使って膀胱内に残っている尿の量を調べます。

▼尿沈渣
尿の成分を検査することで、血液が混入していないか、尿路に感染が起きていないか、などを調べます。

◆前立腺癌との判別も重要

前立腺肥大症に「前立腺癌」が合併していることもあるので、「PSA検査」も行われます。 血液中のPSA(前立腺特異抗原)の量を調べる検査です。この値が高い場合には前立腺癌の可能性があるため、詳しい検査が行われます。