更年期障害の薬物療法

つらい「更年期障害の症状」で悩んでいる場合は、自分に適した治療法を選ぶことが大切です。 薬物療法では「ホルモン補充療法」が効果的ですが、 乳癌のリスクが報告されているので、効果と副作用を知り、十分に検討しましょう。


■更年期症状の薬物療法

「更年期症状」に対する薬物療法の一つに、低下した女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法」があります。 そのほか、漢方薬や抗鬱薬などを服用する場合もあります。更年期症状の感じ方は人によって異なります。 治療を受けるか受けないか、どの治療法を選択するか、どのくらいの期間治療を継続するかなどを決めるのは、最終的には患者さん自身です。 症状の種類や程度、女性ホルモンの低下度、それぞれの治療法の特徴などを考え合わせ、婦人科の担当医とよく相談して決めるようにしましょう。


●ホルモン補充療法

「のぼせ、発汗」などに有効。治療中は乳癌の検査を受ける

卵巣機能の低下や女性ホルモンの減少が原因で自律神経が乱れるようなら、ホルモン補充療法を行います。 女性ホルモンの減少で障害が起こるのは、急に卵巣機能がストップして、女性ホルモン量が急激に減少するからです。 女性ホルモンが徐々に減少するのであれば、体も徐々に順応して更年期障害は軽くなります。 そこで、女性ホルモンを少し補充してホルモンのバランスを整えます。 そして体が変化に慣れてきたら、少しずつ補充するホルモン量を減らしていきます。 ホルモン補充療法は、膣や外陰の萎縮や乾燥・かゆみなどの生殖器の障害、のぼせ・ほてり・動悸といった血管運動神経障害、 発汗などの皮膚分泌系障害、骨粗鬆症に効果がみられます。 また、肩こりや腰痛、頭痛などには男女混合ホルモンがよく効きます。

女性ホルモンには「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」があります。 ホルモン補充療法の目的は、不足すると特に体に大きな影響を及ぼすエストロゲンを補充することです。 一般的に、40歳頃の濃度50~80pg/mlを保つように補充します。 ただし、エストロゲンだけ補充すると、 子宮体癌が起こりやすいので、これを防ぐためにプロゲステロンを補充します。 一般に、ホルモン補充療法は、エストロゲンの低下や性腺刺激ホルモンの上昇が認められ、更年期症状が比較的強い場合に向いています。 治療を受ける期間は人によって異なりますが、一般的には4~5年以内の治療が勧められています。 患者さんの多くは、最もつらい時期に治療を始め、次第に薬を減らすなど様子を見ながら治療を終了し、更年期を脱しています。 しかし、なかには、「ホルモン補充療法を受けていると心身の調子がよいため、長期間続けたい」といって、検査を受けながら長期間使用している人もいます。

◆薬の使い方

薬の使用法には、主に以下の2つの方法があります。

▼エストロゲンを連続、プロゲステロンを周期的に使用する方法
エストロゲンを1ヶ月間毎日使用し、そのうちの約2週間はプロゲステロンを併用します。 この方法では、月経のような出血が起こります。 2つの薬を併用した後、約1週間の休養期間を設ける方法もあります。

▼連続して併用する方法
エストロゲンとプロゲステロンを同時に連続して使用します。 初期に出血が起こりますが、やがて治まります。

ホルモン補充療法の治療の初期には「乳房の張り、むくみ、出血」などが起こることがあります。 通常、時間の経過とともに治まりますが、気になる場合は、薬を減らしたり、量を減らすなどして対処します。 なお、薬には、飲み薬のほか、エストロゲンの貼り薬があります。

【エストロゲンの貼り薬】
直接皮膚から吸収される貼り薬には、飲み薬よりも肝臓に負担がかからないという長所があり、胆石にも影響はありません。 また、血栓ができるという副作用も少ないのではないかといわれています。 ただし、人によっては「かぶれやすい」場合もあります。 また、日本ではプロゲステロンの貼り薬がないため、貼り薬と飲み薬の両方を使う煩わしさを感じる人もいます。

◆3ヶ月間程度で効果を判定する

ホルモン補充療法は、特に「のぼせ、発汗」などの改善に有効です。 また、「動悸、肩こり」などの身体症状や、「落ち込み、憂鬱」などの精神症状の改善にも一定の効果が見られます。 一般に治療開始から1ヶ月ほどで、何らかの効果が感じられるようになります。 3ヶ月程度で効果を判断し、期待したほどの効果が得られない場合は、他の治療法を検討します。 なお、女性ホルモンを補うことで、更年期に関連して起こりやすい「老人性膣炎」を改善したり、 骨粗鬆症、動脈硬化を予防する効果もあります。

◆ホルモン補充療法を受けられない場合など

ホルモン補充療法を長期にわたって受けると、 「乳癌」、血栓ができて血管が塞がる「静脈血栓塞栓症」 「虚血性心疾患」 「狭心症・心筋梗塞」になる可能性が少し増えると欧米で報告されています。 ただし、短期(数年)であればリスクはほとんどありませんし、長期の場合でもリスクの上昇はわずかです。

【ホルモン補充療法を受けられない人】
▼乳癌や子宮癌になったことのある人や治療中の人
▼静脈血栓塞栓症の治療中の人
【受ける際には注意が必要な人】
▼静脈血栓塞栓症になったことのある人
動脈硬化糖尿病肝機能障害高血圧のある人
子宮筋腫子宮内膜症、乳腺症のある人
胆石のある人

◆定期的に検査を受ける

ホルモン補充療法を受けている間は、1年に1回は乳癌や子宮癌の検査を受けることが重要です。 その他、全身の健康状態を調べるため、一般的な健康診断も受けるようにします。


●その他の薬物療法

その他の薬物療法としては、体質に合わせた漢方薬や抗鬱薬が使われることもあります。

◆漢方薬

昔から、東洋医学で血の道といわれる更年期の不定愁訴の治療に発揮するのが漢方でした。 漢方薬はホルモン剤を使用できない人でも服用できます。 漢方には、「体格や体質、体力、病態などから患者に適した漢方薬が選ばれる」 「心を含めた全身状態のバランスを考えて、症状の改善を図る」などの特徴があり、患者一人一人に合った漢方薬を処方します。 漢方薬は、ホルモン補充療法に比べると作用が穏やかです。 更年期症状が比較的軽い場合や、エストロゲンがあまり低下していない場合、ホルモン補充療法を受けられない、あるいは希望しない場合に適しています。 更年期症状に使われる代表的な漢方薬は、次の3つです。

▼当帰芍薬散
痩せて体力がなく、「冷え」などのある人に適しています。

▼加味逍遙散
体格・体力が中間の人に適しています。特に「不眠、イライラ」などの精神状態の改善に効果があります。

▼桂枝茯苓丸
体格がよく体力がある人の「のぼせ、冷え」などの改善に適しています。

他にも、「防巳黄耆湯」「女神散」「防風通聖散」「柴胡加竜骨牡牡蛎湯」など、症状などに応じて、さまざまな漢方薬が使われます。 ホルモン補充療法と漢方薬を併用することもあります。 ただし、漢方薬は全く副作用がないというわけではなく、用い方によっては胃腸障害などが生じることがあります。 必ず専門医に相談し、体質や診断に合った漢方薬を服用しましょう。

◆抗鬱薬など

西洋薬では、自律神経調整薬が血管運動神経系の障害や、感覚神経系の障害に用いられます。 精神症状が強いときには、抗不安薬、抗鬱薬、睡眠薬などが使用されます。

抗鬱薬
「気分の落ち込み、憂鬱、無気力」などがある場合に使われます。

▼抗不安薬
「不安、イライラ」などがある場合に使われます。

睡眠薬
「不眠」があるときに使われます。

これらの薬は、エストロゲンが余り低下していない、ホルモン補充療法を受けられない、あるいは希望しない場合に適しています。 いずれもホルモン補充療法と併用することもあります。 他に、「のぼせ、発汗」などの症状がある場合に、自律神経の中枢に作用して、 その働きを整える「自律神経調整薬」が使われることもありますが、 ホルモン補充療法に比べると効果はあまり高くありません。