更年期障害対策

自分の症状や辛さをしっかり伝えよう

更年期障害は、本人が辛いかどうかによる”主観的な”病気です。 辛い症状があれば更年期外来や婦人科の専門医を受診してください。 辛さを伝えれば、適切な対処法も見えてきます。 問診では、質問票を使って症状を点数化し、評価します。 また、月経の状態や生活環境、ストレスについても、詳しく聞きます。 女性ホルモンの状態は、血液検査を少なくとも2回は行って調べますが、1年以上月経がない場合は、臨床的に閉経とみなします。 さらに、子宮癌子宮筋腫のほか、 甲状腺の病気や関節リウマチなどが隠れていないかどうかも調べていきます。 更年期障害と診断がついたら、更年期の憂鬱な不快症状を緩和させるために、ホルモンバランスを整えることが必要であると考えられ、 減少したエストロゲンの補充、つまり、外部からエストロゲンを補充します。 具体的には、「ホルモン補充治療(HRT)」「漢方薬」「漢方治療、心理療法」、エストロゲンを多く含む食品の摂取、ということになります。 食事内容を整えた上でどうしても栄養素が不足していれば、健康食品やサプリメントを利用して、自分で行える更年期症状対処法もあります。 また、本人の性格や生活環境、ストレスも深く関わるので、「カウンセリング」も重要です。 一人ひとりの症状に合わせて治療法を使い分けながら、”オーダーメイド”の治療法を探っていきます。


■更年期症状の治療

ホルモン補充療法や漢方を中心にした治療

●ホルモン補充療法(HRT)

更年期症状の代表的な治療法としては、減少した女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法(HRT)」があり、幅広い症状に対して有効です。 ホルモン補充療法は、不足したエストロゲンを薬で補充して、女性ホルモンの量の”ゆらぎ”を小さくし、更年期症状を和らげる治療法です。 ホルモン補充療法で使われる「エストロゲン製剤」には、貼り薬、ジェル状の塗り薬、飲み薬の3つがあります。 多くの場合、初めは、使いやすくて副作用の少ない貼り薬か塗り薬を使います。 貼付剤、ゲル剤は肝臓への負担が少なく、ジェル剤は貼付剤でかぶれやすい人も使いやすいのが特徴です。 飲み薬の中には非常に作用の弱いタイプのもの(エストリオール)もありますが、それを除けば、どの剤形でも効果は同等です。 いずれも健康保険が適用されます。 エストロゲン製剤だけを使っていると、子宮内膜が増殖して厚くなり、 子宮体癌のリスクが高くなります。 そのため、子宮内膜の増殖を抑える「黄体ホルモン製剤」を併せて用いるのが基本です。 なお、子宮の全摘手術を受けている場合は、黄体ホルモン製剤を併用する必要はありません。

●特にのぼせやほてり、発汗などに効果的

ホルモン補充療法で自律神経のバランスが整ってくると、多くの症状が改善します。 のぼせやほてり、発汗、関節痛には特に効果が高く、イライラや落ち込み、不安、憂鬱などの精神症状が改善し、 自信を取り戻して明るく過ごせるようになったという人も多くいます。 1ヵ月程度で効果を感じる人が多いのですが、なかには1~2週間で効果が現れる人もいます。 エストロゲンの作用が復活し、 「骨粗鬆症動脈硬化を予防する」 「 「悪玉コレステロールの値を下げる」 「認知症のリスクを低下させる」 「皮膚や粘膜に潤いが出てくる」という効果も得られます。 最近では、胃癌大腸癌食道癌肺癌のリスクを低下させるという報告もあります。

●使い始めは副作用に注意する

使い初めに、「不正出血」「乳房の張り・痛み」「胃のむかつき・吐き気」が現れる人もいますが、ほとんどは3ヵ月程度で治まります。 不正出血が続く場合は、薬投与方法を変えたり、他の病気が隠れていないかどうかを調べたりします。 また、ホルモン補充療法が適さない人もいます。 乳癌子宮癌になったことのある人や治療中の人、 腎臓病の人、 さらに喫煙者や肥満がある人は 血栓症、塞栓症のリスクが高いため、ホルモン補充療法を避けなければなりません。

●ホルモン補充療法はいつまで続ければよいか

最新のガイドラインでは「ホルモン補充療法の投与継続を制限する一律の年齢や投与期間はない」とされています。 メリットがリスクを上回り、本人がリスクを理解して継続を希望する場合は、続けることができます。 以前は、ホルモン補充療法で乳癌の発症リスクが高くなるという報告があり、「ホルモン補充療法を続けるのは5年までといわれていました。 しかし、その後の研究で、ホルモン補充療法が乳癌の発症に与える影響は、肥満やアルコール摂取と同程度だということがわかってきました。 そのため、現在は1年に1回、乳癌検診を受けていれば、ホルモン補充療法を5年以上続けることも可能です。 実際、70歳代や80歳代で続けている人もいます。 ただし、血縁者に乳癌や卵巣癌を発症したことのある人がいる場合、体質的に乳癌が起こりやすい可能性もあります。 長期治療については、担当医と相談してください。 逆に、本人の希望でやめることも可能です。「体に合わない」「効果が感じられない」「薬なしでもやっていける自信がついた」などがあれば、 担当医に相談してください。


■漢方薬、心理療法

状態や希望によっては、漢方薬が使われることも

ホルモン補充療法以外に「漢方治療、心理療法」などもあります。
更年期障害には、全身のバランスを整える漢方薬も非常に有用です。 ホルモン補充療法が行えない場合や、患者さんが漢方薬での治療を希望する場合などに使います。 ホルモン補充療法と併用するケースや、ホルモン補充療法から漢方薬に切り替えるケースもあります。 漢方では一人ひとりの体格や体質、現れている不快症状などを総合的に診断し、その人にあった漢方薬を処方します。 漢方薬は、ほとんどの内科や婦人科で処方を受けられます。 最近では更年期症状に対して漢方薬を処方する医療機関が増えており、特に婦人科では多くのところが扱っています。 更年期障害の診断がついていれば、健康保険が適用されます。 自分の「証(しょう)」に合っていれば、市販の漢方薬でも構いません。 ただし、漢方薬も副作用が出ることはあるので、注意が必要です。 自己判断で薬の種類や量を増やしたりせず、医師や薬剤師に相談しながら使うようにしてください。


更年期の不快症状の緩和法にもいろいろな選択肢があることを心に留めておきましょう。


●食生活を整える・サプリメントを利用する

更年期の不快症状は、食生活の見直しや運動などの生活習慣を整えることでも軽減できます。

中心となるのは食事の栄養バランスです。食事は基本的に肉や脂を控えめに、野菜、 大豆製品 (イソフラボンだけではなく食物繊維も豊富)、魚を多めにするとよいでしょう。 エストロゲンと似た働きをするイソフラボンを含む食品を適度に摂るとよいといわれています。 また、コラーゲン は肌の乾燥や血管の老化を防ぐために必要な栄養素です。 動脈硬化の予防にはビタミンE、 乾燥の防止にはビタミンB群も大切です。 一つの栄養素が働くためには他の栄養素も必要ですから、それぞれが有効に機能するような組み合わせも意識しましょう。

食事内容を整えた上でどうしても栄養素が不足していれば、健康食品やサプリメントを利用して、 自分で行える更年期症状対処法もあるので、医師との相談の上で取り入れてみるとよいでしょう。 更年期の不快症状を緩和するとされるサプリメント類は薬を服用している場合には飲み合わせの問題があるので、飲み始める前に医師に相談してください。

イソフラボン
植物の中に、エストロゲンと似た化学構造を持ち、エストロゲンと似た働きをする成分が数多く発見されています。 これらは総称して「植物性エストロゲン(エストロゲン様物質)」と呼ばれており、 更年期の不快症状の緩和に役立つものがあると考えられています。 よく知られているのは「大豆イソフラボン」です。 大豆イソフラボンは、大豆や大豆製品(きな粉、豆腐、おから、納豆等)に含まれていますが、 ほてり、のぼせなどの更年期の不快症状を緩和すると考えられています。 また、骨のカルシウムの溶出を防ぐため、骨の健康維持を目的とした大豆イソフラボンの特定保健用食品もあります。 大豆イソフラボンを健康食品で摂取する場合には、過剰摂取にならないように注意が必要です。 食品安全委員会では、大豆イソフラボンを特定保健用食品で通常の食品に上乗せして摂取する場合は、 安全性の面から1日の上乗せ摂取量の上限を30mgと設定しています。 特定保健用食品以外の健康食品については基準は設けられていませんが、この上限値を参考にするとよいでしょう。

プエラリア・ミリフィカ
更年期にはエストロゲンが減少することにより様々な不快症状が現れますが、 「プエラリア・ミリフィカ」のエストロゲン分泌促進作用が更年期の不快症状を和らげるとされており、 プエラリア・ミリフィカは、エストロゲンの不足しがちな更年期の方におススメのサプリメントです。 プエラリア・ミリフィカは、タイ北部に自生する植物で、植物性エストロゲンを多く含んでいます。

黒豆茶
「黒豆茶」には、食物繊維やイソフラボンが豊富に含まれています。 さらに、アントシアニン、 大豆レシチン、大豆サポニン等の成分も含まれており、美肌・ダイエット・更年期障害・骨粗鬆症予防などによいといわれています。

ザクロ
果実の「ザクロ」の種子にも植物性エストロゲンが含まれています。

ローヤルゼリー(デセン酸)
蜂の分泌物から作る「ローヤルゼリー」も更年期の不快症状対策としてよく利用されている健康食品です。 ローヤルゼリーに含まれる「デセン酸」という脂肪酸の一種が更年期の不快症状を軽減するといわれています。 また、全ての 必須アミノ酸ビタミンB群が含まれているので、 体力回復などの目的でも利用されています。

ニンニク
更年期障害によるのぼせ・ほてり・発汗などの不快症状の改善のための食品には、女性ホルモン不足を強力に補う「ニンニク」が効果的です。

メキシカンワイルドヤム
メキシカンワイルドヤムは、女性ホルモン様物質を豊富に含む、女性の強い味方となるハーブサプリメントです。 女性ホルモン様物質は女性特有のお悩みを持った方におすすめの成分で、 更年期障害に伴う不快症状の改善やバストアップ効果が期待できます。

高麗人参
「無気力」「めまい」「頭重」「冷え」「イライラ感」「発汗」「頭痛」などの更年期障害の不定愁訴や、 女性に多い冷え性や貧血の解消には、高麗人参が極めて有効に働きます。

▼その他
プラセンタ
日本山人参

これらを健康食品で摂取する際も、安全性を重視して過剰摂取に気をつけましょう。


●骨粗鬆予防とコレステロール対策を

エストロゲンには、 カルシウムの吸収を助け、排出を抑える作用や、 LDLコレステロールを減らす作用などもあります。 骨粗鬆症に予防に欠かせないカルシウムは、 吸収を助けるビタミンDや、 カルシウムと似た性質であるマグネシウムと一緒に摂取すること、 運動により骨に負荷をかけて吸収を促進することが大切です。 エストロゲンが減少する更年期からは、カルシウム不足による 骨粗鬆症や、 LDLコレステロールの増加による動脈硬化などの対策も心がけるようにしましょう。


●男女共通の悩み

女性、男性に共通した更年期の不快症状の悩みでは、頻尿、尿失禁など 尿のトラブルが多く聞かれますが、 欧米ではハーブの「ノコギリヤシ」 がよく利用されているようです。 抜け毛など髪に関する悩みも男女共通の更年期の悩み。 アミノ酸のバランスが取れた良質なたんぱく質、ビタミン、ミネラルなど、髪に必要な栄養素をきちんと摂りましょう。


●更年期症状はいずれ治まる

一般に、エストロゲンの血中濃度が30pg/ml(pgは1兆分の1g)程度まで低下すると、更年期の不快症状が現れやすくなるといわれています。 更年期の不快症状は一生続くことはありません。つらい更年期の不快症状が続く期間は一般的に2~3年間、長くても5年間ほどです。 ただし、約10%の人は長期間続くといわれています。体がエストロゲンの低下した状態に慣れると不快症状が治まり、更年期を脱します。