高尿酸血症(痛風)の治療Ⅱ
「薬物療法」

痛風の薬物療法には、2つあります。1つは痛風を抑えるもの。もう1つは尿酸値を下げるものです。


■高尿酸血症(痛風)の治療Ⅱ 「薬物療法」

高尿酸血症の治療は、
「食事量を抑えて、肥満を解消する」
「お酒を飲みすぎない」
「水分を十分に摂る」
「適度な運動をする」
「ストレスを上手に発散する」
等の「生活療法」が基本になります。こうした生活療法を行っても尿酸値が十分に下がらない場合に「薬物療法」を加えます。 ただし、痛風発作を起こした人では、通常、生活療法と薬物療法を平行して始めます。

高尿酸血症には、「尿酸排泄低下型(尿酸の排泄が低下するタイプ)」と「腎負荷型(尿酸の産生が過剰になるタイプ+腎外排泄低下)」、 そして「混合型(その両方を併せ持つタイプ)」の3種類があります。 薬物療法で尿酸値を下げる場合は、これらのタイプなどに合わせて薬が選ばれます。 高尿酸血症のタイプは、尿を溜めて、尿酸の排泄量を調べる検査でわかります。 入院して24時間分の尿を溜める方法もありますが、通常は半日程度で調べられます。


■高尿酸血症の薬物治療

尿酸値を下げる治療薬が進歩してきた

高尿酸血症の治療では、2011年にフェブキソスタットが登場し、13年にトピロキソスタットが加わって、薬物治療は大きく変わってきています。 これら2つの新薬は肝臓での尿酸の合成に関わる酵素の働きを抑えることで、作られる尿酸を減らす尿酸生成抑制薬です。 それまで唯一の尿酸生成抑制薬だったアロプリノールも、作用の基本的な仕組みは同じですが、腎機能の低下に応じた用量調節が必要で、 稀に重い副作用が起こることがあるため、使いにくいケースがありました。 一方、2つの新薬では、中等度の腎障害までは用量調節が不要で、薬の飲み合わせによる影響や副作用も少ないことから、治療を行いやすくなっています。 最近では、尿酸排泄低下型の患者さんにも有効との報告もあります。ただし、薬価は新薬のほうが高くなります。 そのほか、抗癌剤治療に伴う高尿酸血症に対して、尿酸分解酵素薬やフェブキソスタットが用いられています。


●無症状の高尿酸血症に薬を使うかどうか

痛風関節炎や痛風結節が起こっていない「無症候性高尿酸血症」では、腎臓などの臓器保護の目的で尿酸降下薬を使うかどうかについて、 専門家の中にも議論があり、国によっても異なります。 日本のガイドラインでは、まず生活習慣の改善を図ったうえで、合併症がある場合は尿酸値が80mg/dL以上、 合併症がない場合でも尿酸値が9.0mg/dL以上であれば、薬による治療を検討することが勧められています。 新しいガイドラインでは、その目安を踏襲しながら、推奨度は患者さんの合併症などと薬を使う目的によって異なっています。 例えば腎障害がある場合に、腎機能の低下を抑える目的で尿酸降下薬を使うことは推奨されていますが、 高血圧や心不全がある場合、心血管病の発症や死亡を減らす目的で使うのは、根拠が不十分で、積極的には推奨できないとされています。 また、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を合併している場合は、その管理を優先し、尿酸代謝に好ましい治療薬を選んで使います。 それでも8.0mg/dL以上の場合に尿酸降下薬を加えます。


●尿酸降下薬は、尿酸値を6.0mg/dL以下に保つことを目標に使う

血液中に溶けきれない尿酸が結晶化して溜まるのは、尿酸値が7.0mg/dLを超えたあたりからですが、 それより少し低い程度では、溜まった尿酸の結晶はほとんど減りません。 高尿酸血症の治療では、尿酸値を6.0mg/dL以下に維持することを目標にして薬を使っていきます。 痛風結節がある場合は、できれば5.0mg/dL以下に下げるのが望ましいとされています。 無症候性高尿酸血症でも、尿酸降下薬を用いる場合には、尿酸値6.0mg/dL以下が治療の目標となります。 ただし、尿酸値を下げる方法は薬物治療だけではありません。高尿酸血症と診断されたらまず肥満と飲酒の改善が必要です。 メタボリックシンドロームに関する研究では、体重を3%以上減らすと、血糖値や血圧、脂質代謝、肝機能などとともに尿酸値も改善しています。


■痛風の薬物療法

痛風発作には早期にしっかり薬を使い、軽快したら中止する

急性の痛風関節炎は、特別な治療をしなくてもいずれ治まりますが、 痛みが激しく、患者さんの生活の質を著しく低下させるのは明らかです。やはり速やかに薬物治療を行うことが勧められます。 治療薬としては、非ステロイド抗炎症薬、コルヒチン(低用量)、ステロイド薬のうち、いずれかを使います。 従来、痛風発作の治療では、「予兆があったらコルヒチン、発作時には非ステロイド抗炎症薬、非ステロイド抗炎症薬が使いにくければステロイド薬」 と位置付けられてきましたが、新しいガイドラインでは、いずれも第一選択薬とされています。 その中で、患者さんの経過・重症度・併用薬などに応じ、薬の副作用や担当医の経験などから選択されます。 痛風発作に対する薬は、必要な期間、十分な量を用い、症状が軽快したら中止します。 ステロイド薬も3~5日ほど使うだけなので、長期使用に伴う免疫機能の低下のような副作用の心配は無用です。 尿酸値を急に変動させると痛風発作を誘発しやすいので、尿酸値を下げる薬は、関節炎が完全に治まった後に、少量から開始します。 尿酸降下薬の使い始めに起こる発作の予防に、コルヒチンを3~6ヵ月併用することもあります。


●痛風の薬物療法

痛風の治療は次の3つの目的に分けて考えられ、用いる薬も目的によって違います。

▼痛風関節炎の治療
痛風発作の炎症や痛みを抑える薬を用います。

▼高尿酸血症の治療
60mg/dl未満を目標に尿酸値を下げる薬を用います。溜まった尿酸を溶かし出して、痛風発作や合併症を防ぐ痛風の基礎治療です。

▼尿路結石を防ぐ治療
尿をアルカリ性に保ち、尿酸を溶けやすくする薬を用います。

●痛風発作を抑える薬

「痛風発作を抑える薬」には、「コルヒチン」「非ステロイド消炎鎮痛薬」「ステロイド薬」があります。 関節炎の治療には、関節の痛みや腫れなどを鎮める「非ステロイド消炎鎮痛薬」が多く用いられます。 また、発作が起こりそうだという兆しがあったときに服用する薬もあります。

◆コルヒチン

痛風発作緩解薬の「コルヒチン」は、古くから痛風の特効薬として知られる薬で、 痛風発作を抑えたり、発作を軽くする効果があります。ただし、症状を抑えるだけで根本的な治療ではありません。
痛風発作は、関節に溜まった尿酸の結晶が何かの拍子に剥がれ、白血球がそれを取り除こうとする結果、 炎症が生じ、痛みが起こります。「コルヒチン」は白血球の作用を抑えて、 炎症を起こす物質が放出されないようにすることで、発作を抑えます。 痛風発作を起こしたことのある人は、この薬を携行して、前兆があったら予防的に飲みます。 尿酸値を下げている途中は発作が起こりやすいので、連日使う場合もありますが、発作時だけ使うのが基本です。

【副作用・使用上の注意】

下痢などの副作用が現れることがあります。多量に服用すると、精子形成への影響があるともいわれます。 量を増やすと、副作用が出やすいので、必要なときに必要なだけ用いることが大切です。 シメチジン(胃潰瘍などの薬)、ニフェジビン(高血圧や狭心症の薬)などとの併用で、 効果が強くなったり副作用が出やすくなることがありますが、発作時に1~2錠飲む程度なら、ほとんど問題ありません。

◆非ステロイド消炎鎮痛薬

痛風発作が起きてしまったら、関節の炎症を抑えて、痛みや腫れなどを鎮める作用のある 「非ステロイド消炎鎮痛薬」が治療の中心になります。 痛み止めとして広く使われている薬ですが、痛風関節炎には「インドメタシン」「ナプロキセン」 「プラノプロノフェン」「オキサプロジン」などが用いられています。
痛風発作は痛みが激しいため、「パルス療法」といって、腰痛などで用いる通常寮よりも多めの量を、 通常1~2回程度の短期間だけ服用します。その後も症状が残っているようなら、通常量を服用します。 発作の痛みが治まれば、服用は中止します。

【副作用・使用上の注意】

非ステロイド消炎鎮痛薬は、副作用で胃腸障害が起こりやすいとされていますが、痛風治療では、 用いる期間が短く、また、痛風の人は胃腸の強い人が多いため、問題になることは稀です。 ただし、もともと腎不全のある人は、この薬は使えません。

◆ステロイド薬

痛風関節炎が同時に何ヶ所も起きた場合、あるいは、非ステロイド消炎鎮痛薬が使えない場合や 使っても効果がない場合には、「ステロイド薬(副腎皮質ホルモン薬)」が用いられます。 炎症を強力に抑えて痛みや腫れなどを取り除く薬で、痛風関節炎には「プレドニゾロン」などが用いられます。 内服で用いるほか、関節への注射(関節腔内注射)などが行われる場合もあります。 内服薬の場合、1日に15mgを1週間、10mgを1週間、5mgを1週間飲んでやめるというような服用法になります。 急にやめるとリバウンドがあるので、少し長めに使って、徐々に減量します。 関節腔内注射は、効果は高いのですが、細菌などの感染の危険性もあります。

【副作用・使用上の注意】

短期使用なので、感染が起こりやすくなるなどの副作用は、まず見られません。 服用中は、自己判断で中止したり、量を変えたりしてはいけません。


●尿酸値を下げる薬

「高尿酸血症(痛風)」には、尿中への尿酸の排泄量が減る「尿酸排出低下型」と 体内で尿酸が過剰に作られる「尿酸産生過剰型」 および、排泄低下と産生過剰が混合している「混合型」があります。

尿酸値を下げる「尿酸降下薬」には、「尿酸排泄促進薬」と「尿酸生成抑制薬」があります。 高尿酸血症のタイプにより、尿酸排泄低下型には尿酸排泄促進薬を、尿酸産生過剰型には、 尿酸生成抑制薬を用いるのが基本です。 どちらの薬も、薬物療法を始めた直後は、関節に溜まった尿酸の結晶が溶け出すため、痛風発作が起き易くなります。 尿酸値を下げる薬は、最小用量から始めて、尿酸値が60mg/dl未満になるまで、徐々に使用量を増やしていくのが原則です。

◆尿酸排泄促進薬

腎臓で濾過された尿酸の再吸収を抑えて、尿酸の排泄量を増やす薬で、 主に尿酸排泄低下型の高尿酸血症の人に用いられます。 現在、主に使われているのは、「ベンズブロマロン」という薬です。 ベンズブロマロンが使えない場合には、「プロベネシド」や「ブコローム」を用いることもあります。 ベンズブロマロンは、1日1回服用するのが、一般的ですが、2~3回に分けて服用することもあります。

【副作用・使用上の注意】

尿中に排泄される尿酸が多くなるので、水分をたくさんとって、尿量を増やすようにします。 尿路結石を防ぐために、通常、「尿アルカリ化薬」を併用します。 また、ベンズブロマロンでは、頻度は低いものの、まれに重い肝障害が起こることがあるので、 服用開始から6ヶ月間は、月1回、肝機能の検査が必要です。

◆尿酸生成抑制薬

肝臓での尿酸合成に関わる酵素の働きを阻害して、肝臓で尿酸がつくられるのを妨げる薬で、 主に尿酸産生過剰型の高尿酸血症の人に用いられます。現在、日本で使われているのは 「アロプリノール」という薬です。一般的には1日1回、朝1錠を飲んでいる人が多いのですが、 作用時間が比較的短い薬なので、できれば1日2回朝晩にわけて飲んだ方が尿酸値は安定します。 薬を飲むタイミングにあまり制約はありませんが、量を守って規則的に飲むことが大切です。

【副作用・使用上の注意】

腎不全の人が多量に用いると、血中濃度が非常に高くなって、「中毒症候群」「再生不良性貧血」などが起こることがあります。 用いる場合はごく少量から使い始めます。 メルカプトプリンやアザチオプリン(いずれも免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支拡張薬)、 ワルファリンカリウム(血栓を予防するための薬)などとの併用に注意が必要とされています。 実際に薬の相互作用で問題が起こることはあまりありませんが、副作用が起こるのは、 ほとんどが最初の6ヶ月の内です。まれに肝障害が起こる場合もあるので、血液検査でチェックすることが勧められます。

◆その他の薬

尿酸降下薬のほか、高尿酸血症に合併する病態に応じた薬が用いられることもあります。 例えば、「ロサルタンカリウム」という降圧薬は、血圧と同時に尿酸値を下げるので、 高血圧を合併している高尿酸血症の人に向いています。 「フェノフィブラート」という薬は中性脂肪と同時に尿酸値を下げるので、 中性脂肪が高いタイプの高脂血症と高尿酸血症を合併している人によく用いられます。


●尿酸を溶けやすくする薬

尿酸を溶けやすくする薬には、「尿アルカリ化薬」があります。

◆尿アルカリ化薬

尿をアルカリ性に傾けて、尿酸を溶けやすくし、結晶化を抑える薬です。 以前は主に、「炭酸水素ナトリウム」(重曹)が使われていましたが、今はほとんどの場合、 「クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム」(配合剤)が使われます。 痛風の人は尿路結石ができやすいため、尿が酸性にならないようにするのは大切なことです。 ただし、この薬には尿酸値を下げる作用はありません。一般に、尿酸排泄低下型の高尿酸血症の人では、 尿酸排泄促進薬と尿アルカリ化薬を併用します。

【副作用・使用上の注意点】

尿アルカリ化薬は、1日2~3回、食後に飲むのが一般的です。 副作用はほとんどなく、使えない人はまずありませんが、ナトリウムが含まれているために少し 血圧が上がることがあるので、血圧が高い人は注意して用います。炭酸水素ナトリウムは含まれるナトリウムの量が多く、 高血圧や心臓病の人には適さないとされますが、現在用いられている配合剤はナトリウム量が炭酸水素ナトリウムの約半分です。 ただし、高カリウム血症の人には、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム配合剤は使えません。


●尿酸値を下げる薬を使い始める時機、中止する時期

生活習慣の改善を行っても尿酸値が下がらなかったり、痛風発作が起こる場合には、 薬を用いて尿酸値をコントロールしますが、痛風発作が起きたからといって、 すぐに薬物療法を始めると、返って発作が起こりやすくなります。 発作が治まってから2週間程度は避けたほうがよいでしょう。ただ、すでに薬物療法を始めている場合は、 薬を飲み続けてかまいません。発作の前後で尿酸値を大きく変化させないことが大事です。 薬物療法の目標は、尿酸値を6.0mg/dl以下に安定させることですが、4.5ml/dlくらいで安定するようなら、 薬を少しづつ減らすこともできます。ただ、薬物療法を中止するまでに5~10年はかかることを覚悟する必要があります。


■関連項目