歯周病

歯周病は、 歯の表面に付着した「デンタルプラーク歯垢)」によって 歯肉(歯茎)など歯を支える歯周組織に炎症が起こり、破壊されていく病気で、「生活習慣病」の一種です。 進行すると歯を支える歯槽骨も破壊されてしまいます。 「デンタルプラーク」とは、食べカスではなく、細菌の塊です。 そしてこの中には、虫歯菌とともに「歯周病菌」も含まれており、これら細菌(特に歯周病菌)の持つ毒素によって、 歯の周囲や歯茎(歯肉)や歯の根(歯根)を支える骨(歯槽骨)が炎症を起こし破壊されていく病気が「歯周病」です。 口の中には、歯周病菌を含め何百種類もの細菌がいて、きちんとケアをしていないと増えてしまいます。 プラークは増殖した細菌の塊なので、プラークが増えると歯周病菌も増え、歯周組織に炎症を起こします。 歯を失う一番の原因が歯周病です。重症化すると、やがて歯茎や歯を支える骨が破壊され、さらに進行すると歯が抜け落ちてしまいます。 悪化すると口の中のトラブルだけでなく、全身の様々な病気にも影響を及ぼします。 歯周病菌は血液の流れにのって全身に運ばれることがわかっており、血管の内側に張り付いて各所で炎症を起こすと、 「動脈硬化」「心筋梗塞」 「糖尿病」の悪化、 早産等、全身の健康に悪い影響を及ぼすといわれています。 日本人の場合、成人の8割以上に歯周病があるといわれています。 また、歯を失う原因は色々ありますが、その中で第1位を占めているのは、虫歯ではなく歯周病なのです。 歯周病は、幅広い年代で増えていますが、特に高齢者の増加が目立っています。 以前より歯が残っている人が増えた一方で、ケアが十分に行き届いていないためと考えられます。


■歯周病は怖い病気

歯周病は歯だけでなく、人生をも奪う!?

食べ物をよく噛んで味わって食べ、体に必要な栄養を摂るには、自分の歯が健康であることが第一です。 口元を気にしないで楽しくおしゃべりしたり、言葉をはっきりと発音したりするということも、自分の歯があればこそできることです。 年を取っても自分の歯を残すということは、体の健康を維持するだけでなく、 社会性や積極性などの心の健康を維持することでもあるのです。

自分の歯を残すために知っておかなければならないのが、「歯周病」の怖さです。 現代日本人の約8割は、軽度から重度まで程度に差はありますが、歯周病にかかっているといわれています。 歯を失う原因の中で歯周病は最も多く、50歳以上では約90%が歯周病で歯を失っています。 さらに、最近の研究結果から、歯周病菌は血液の流れに乗って全身に運ばれることがわかっており、 血管の内側に張り付いた歯周病菌の強力な毒素や、炎症などによってできる物質などのため、 「糖尿病」 「動脈硬化」 「心筋梗塞」 「肺炎」「低体重児出産」などと深いかかわりがあることが、次々と解明されています。 また、 「肥満」「喫煙」などは、歯周病を悪化させることもわかっています。 歯周病がある人の心筋梗塞で亡くなる率は約2倍といわれ、失った歯の数が多いほど寿命が短くなるという調査結果も出ています。 歯周病は歯だけでなく、人生をも奪う、恐ろしい病気なのです。


■歯周病の原因と進行

歯肉が腫れたり後退し、やがて歯根が露出してくる
気付いたときには、中等度・重度まで進んでいる

食事をすると、食べ物のカスが歯に残ります。これを放っておくと、歯周病菌が集まってきて固まり、 2時間もすると粘着性のある塊となって歯の表面などに付着していきます。 この細菌の塊を「デンタルプラーク(歯垢)」といいます。 時間が経つと、細菌の死骸に、唾液中のカルシウムやリンが浸み込んで、デンタルプラークは軽石状の「歯石」になります。 歯周病は、歯や歯肉にデンタルプラークが付着することが原因で起こります。 デンタルプラークは細菌の塊で、中でいろいろな種類の細菌が繁殖しています。

口の中には、500種類以上の細菌が存在しており、約1mgのデンタルプラークには、1億~10億個もの細菌が潜んでいるといわれています。 そのうち、「ジンジバリス菌」など十数種類の細菌が歯周病を引き起こす「歯周病菌」と呼ばれています。 歯周病菌には、組織を破壊する「たんぱく質分解酵素」を持っているものや、「白血球などを破壊する毒素」を持っているものがいます。 歯磨きが十分に行われず、デンタルプラークが残っていると、そこで歯周病菌も増えてしまいます。 歯周病菌は酸素のない環境を好む細菌なので、歯と歯肉の間(歯周ポケット)が深くなるとよく繁殖します。

歯周病菌に感染すると、歯肉は自分を守るために免疫物質を出して歯周病菌と闘い、その結果、炎症が起こります。 炎症が起こったところは組織が死んで、歯と歯茎の隙間が深くなり、歯と歯茎との間に「歯周ポケット」という溝ができます。 歯周ポケットの中には歯垢や細菌が溜まりやすいため、歯周ポケットは徐々に深くなり、その中で歯周病菌が増殖し、炎症が進行していきます。 そして、そこにデンタルプラークや歯石がさらに溜まっていきます。 デンタルプラークが溜まると、歯周病菌が増えて骨の破壊を進める毒素を出し、歯を支えている「歯槽骨」を溶かします。 そのため、歯周病が進むにつれて歯がぐらつき始め、抜けやすくなります。 その過程で炎症が歯茎だけに限られている軽度な状態を「歯肉炎」、 炎症が歯肉だけでなく、歯槽骨の破壊にまでまで及んでいる状態を「歯周炎」と言います。 歯肉炎とは、プラークによって歯茎が炎症を起こし、歯ぐきが腫れている状態です。 歯周病は歯肉炎から歯周炎へ進行していき、歯を支えている歯槽骨や歯根膜などを破壊していきます。 重度になると、歯を支えている歯槽骨が溶け始め、わずかな力が加わっただけでも歯が抜け落ちてしまいます。 また、歯周炎が進行すると、歯ぐきが下がり、歯の根元の部分が露出します。 歯の根元の部分は、ふだん露出していないため柔らかく、虫歯になりやすくなります。 歯周病を起こした場合は、虫歯にも注意する必要があります。 歯周病は、無症状で長い年月をかけて進行します。自覚症状が現れたころには、歯周病がかなり進んでいることもしばしばです。 特に喫煙者の歯周病は、腫れや赤みが少ないため、重症になるまで気づかないことが少なくありません。 歯周病を完治させるには、軽度のうちに見つけることが最も重要です。

歯周病菌は、空気を嫌う「嫌気性菌」なので、歯の表面に比べて空気に触れにくい歯周ポケットで活発に繁殖し、 組織を破壊する酵素や毒性の強い物質を放出します。それらによって炎症が起こったり、歯槽骨が溶かされていきます。 歯石は表面がザラザラしていて、「表面にプラークが付着しやすい」「細菌の出す有害物が染み込みやすい」などの性質から、 歯石が溜まることも炎症を起こす要因であると考えられています。

▼歯肉炎
歯周病菌が、歯と歯肉の境目から歯肉の中に侵入しようとすると、歯肉が赤く腫れてきます。 この状態が歯周病の始まりで、「歯肉炎」といいます。 炎症による歯肉の腫れが強くなると、歯と歯肉の境目が深くなって「ポケット」という溝ができます。

▼歯周炎
歯肉炎をそのままにしているとさらにポケットが深くなり、炎症が広がって、歯を支える歯槽骨が破壊されます。 この段階を「歯周炎」といいます。 歯槽骨が失われている程度や、ポケットの深さによって、重症度が「軽度」「中等度」「重度」に分けられます。 進行した歯周炎は中高年に多いのですが、10歳代でも歯周炎が進行するケースもあります。 歯周組織が破壊されると、歯が支えられなくなってしまうため、噛むときに歯がグラグラと揺れるようになります。 進行すると、歯の揺れがさらに大きくなり、最終的には歯が抜けてしまいます。

個人差はありますが、プラークが付着してから約1~2週間で初期の歯肉炎が起こります。 歯肉炎が起こった場合でも、早く気付いて正しい歯磨きを続ければ、健康な状態に戻ることが期待できます。 歯周炎に進行してしまうと、治療が必要になり、治療期間が長くかかるようになります。

【関連項目】:『歯周病の進行と症状』


歯周病の進行


●歯周病が起こりやすいのは磨きにくい部位

歯周病はまず、歯と歯の間の盛り上がった歯肉から炎症が起こり、次第に歯の周りに炎症が広がり、さらに進むと歯肉全体に炎症が及びます。 特に歯ブラシの届きにくい奥歯や歯並びの悪い歯などには歯垢が付きやすく、歯周病が進みやすくなります。 また、歯の噛み合わせが悪いと、特定の歯だけに力が加わって強く揺すぶられて、歯周病を重症化させます。 ブリッジの土台になっている歯、入れ歯の留め金を掛けている歯なども、歯周病が進みやすいので、十分な手入れが必要です。


●歯並び・噛み合せの悪さも原因

「不正咬合」とは、歯並びが不揃いなために噛み合わせがよくない状態を言います。 歯の噛み合わせが悪いと、その部分だけに強く力がかかったり、強く揺すぶられたりして、歯周病が進みやすくなります。 もともとは噛み合わせがよくても、歯周病で歯がグラグラしてくると、不正咬合が起こりやすくなります。 また、不正咬合は、 「頭痛」 「肩こり」 「めまい」 「耳鳴り」「背中の痛み」「不定愁訴」などの全身の病気の原因になることも知られています。 姿勢や平衡感覚が悪くなって転びやすくなり、家にこもりがちになって社会性が損なわれることもあります。


●中年以降に歯周病が進む理由

若いころは歯磨きがおざなりでも何とかなったのに、中年になると念入りに歯磨きしても歯周病が進むという人が多いものです。 これは、若いうちは感染しても体に抵抗力があるためそれほど悪化しなかったけれども、 年を取って体の抵抗力が衰えることによって、歯周病菌の活動が活発になるためです。


■歯周病菌の全身への影響

歯周病は、全身に様々な影響を及ぼすことがわかっています。 歯周病菌や歯石などがあると、歯肉に常に炎症が起こっている状態になります。 その炎症によって、体内にいろいろな物質が作られ、さらにそれが毛細血管から全身に広がり、 それによって動脈硬化促進、糖尿病悪化、低体重児出産・早産など、さまざまな病気が引き起こされることがあります。

▼脳・心臓の血管の病気
歯周病菌の刺激で脳や心臓の血管が動脈硬化になりやすくなり、 脳卒中心筋梗塞 などの危険性が高くなります。

▼糖尿病
歯周病で生じる炎症物質により、血糖値が高い状態が続きやすくなります。 すでに糖尿病のある人は、歯周病を起こしやすいと考えられます。

▼肥満
歯周病で生じる炎症物質によって、脂肪を溜め込みやすい体内環境が作られ、 肥満になりやすくなります。

▼早産・低体重児出産
妊娠している女性が歯周病にかかると、陣痛を促す物質が増加して、早産や低体重児出産に影響すると考えられています。

また、歯周病で歯を失い、噛むことができなくなると、脳への刺激が少なくなるなどして、認知機能が低下し、 認知症を発症する危険性が高まるといわれています。

【関連項目】:『歯周病菌の全身への影響』

歯周病が関係する病気



■歯周病と生活習慣

歯周病の発症や悪化には、喫煙、過労、ストレスなどの生活習慣が関係しているといわれています。

喫煙
喫煙習慣のある人は、ない人より歯周病を起こしやすいと報告されています。 また、喫煙していると、歯周病が治りにくいこともわかっています。 ニコチンには血管を収縮させる作用があり、歯肉などの血流が悪くなって炎症が強まると考えられています。

過労ストレス
過労や睡眠不足で体力が低下したり、過剰なストレスが加わると、抵抗力が低下します。 抵抗力が低下すると、歯周病菌の働きが強まったり、活発に増殖して、歯周病が悪化します。 規則正しい生活を心がけ、ストレスを溜めないようにする工夫が大切です。

■歯周病が疑われる人

口の中の粘着きや、歯を磨いた時の出血などが目安になる

次の項目に一つでも当てはまる人は、歯周病になっている疑いがあります。

▼起床時に口の中が粘つく
プラークがある証拠です。そこで細菌が繁殖していて、細菌が出す物質が口の中に溜まると、ネバネバした感じになります。

▼抜けたままにしている歯がある
抜けた歯がある人や、歯並びの悪い人は、歯を磨きにくい部位があるため、プラークが残りやすい傾向があります。 歯が抜けた原因が歯周病の場合には、他の歯も歯周病になっているリスクが高いので注意が必要です。

▼歯ブラシに血が付く
歯肉に炎症が起きている証拠なので、少しでも血が付いたら、歯周病だと考えられます。

▼歯が長くなったように見える
歯周病が進行して歯槽骨が破壊されると、歯肉が下がります。歯が長くなったように見えるのはそのためです。 また、今は健康でも、過去に歯周病になっていた可能性もあります。

自己チェックをして、当てはまる項目がある人は対策が必要です。


■歯周病の予防と治療

正しい歯磨きを行い、定期的に検査を受けることが大切

歯周病の予防は、正しい歯磨きを習慣化することが第一です。虫歯になったことがない人ほど「自分は歯が丈夫だ」と過信し、ケアを怠りがちです。 歯並びによって磨きにくいところがあったり、磨き方の癖で磨き残しがあったりする場合もあります。 定期的に歯科で歯のクリーニングや検診を受けるようにしましょう。 また、ストレスや喫煙は免疫の働きを低下させ、炎症を起こしやすくします。 これらの生活習慣を見直すことも大切です。

【関連項目】:『歯周病の治療』 / 『プラークコントロール』