歯周病の再生療法

フラップ手術と同時に行い、歯槽骨などの再生を促進する

歯槽骨の残り具合などが一定の条件を満たして入れば、 フラップ手術の後に、破壊された組織を復活させる「歯周組織再生治療」を行うことができます。 歯周組織再生治療とは、細胞や組織がもともと持っている再生能力を利用して、歯周病で破壊された歯槽骨などの組織を再生させようとする治療法です。 現在、「GTR法」「バイオリジェネレーション法」の2つの方法が行われています。 どちらも手術後1年~1年半ほどで歯周組織が再生しますが、最近では、バイオリジェネレーション法を行うことが多くなっています。


■遮蔽膜を置くGTR法

炎症により欠損した部分が広範囲にわたる場合に行います。 欠損によりできた空間に人工素材の「遮蔽膜」を入れ、空間を確保します。 この空間に歯根膜や歯槽骨の細胞を誘導して、欠損部分を埋めます。遮蔽膜は人体に自然に吸収されるので、 取りだす必要はありません。 また、フラップ手術で歯肉を切断すると、傷口が治る過程で、歯肉表面の上皮が傷口の内側に入り込み、 歯根膜や歯槽骨が下から再生してくる空間を埋めてしまうため、十分に再生が行なわれません。 そこで、遮蔽膜を置き、上皮が内側へ入り込まないようにして、歯根膜や歯槽骨の再生を促します。 この治療法は、高度な技術が必要で、手術時間は1ヶ所につき1~2時間程度で、1回で手術できる個所は2個所くらいまでです。 歯骨が後退し、遮蔽膜を覆うだけの歯肉がなかったり、再生が追いつかないほど歯槽骨が溶け出している場合には、 GTR法は適していません。


■バイオリジェネレーション法

欠損の範囲が狭い場合に行います。フラップ手術の後に、歯周組織の再生を促す特殊なタンパク質(エナメルマトリックスたんぱく) を歯根に塗り、歯肉を縫合します。
「エナメルマトリックスたんぱく」とは、組織の再生を促す働きを持つ特殊なたんぱく質で、 新しい歯が作られるときに重要な働きを果たしているものです。歯周病の再生療法では、 動物の歯胚(歯のもとになる組織)から抽出生成されたジェル状のものが使われます。 この方法では、フラップ手術で歯石などを除去した後、歯根の表面にたんぱく質を塗り付けます。 すると、このたんぱくに誘導されて、歯根膜や歯槽骨が再生され、半分くらいになった歯槽骨も、 人によっては元に近いところまで戻せます。一度に複数の歯を治療できるという利点もあります。 手術時間は、フラップ手術と同程度です。エナメルマトリックスたんぱくを使う方法は、 GTR法と同等の効果があるといわれています。 ただし、プラークコントロールの悪い人や全身疾患のある人などは、この手術は行えない場合があります。


■抜歯

歯槽骨が溶け出している重度の歯周炎の場合、炎症や歯槽骨の溶け出しが、隣の健康な歯に及ぶことがあります。 また、例えば、右の奥歯がぐらついて、物をよくかめなくなると、常に左側の奥歯ででかむようになりがちです。 すると、左側の奥歯に大きな力がかかって、左側の歯までぐらつくようになったり、歯周病が悪化したりすることが あります。同じ重度の歯周炎でも、このような周囲の歯への影響などを考慮して、抜歯のタイミングが決められます。

【動揺度】
歯のぐらつきの具合のこと。ぐらつきがなければ「0」、前後1方向に揺れると「1」、 前後左右の2方向に揺れると「2」、前後左右上下の3方向に揺れると「3」と判定される。


■細胞移植

細胞移植は歯根膜や歯槽骨の細胞を採取し、増殖させて移植する方法で、歯周組織の再生を促したり インプラントを打ち込むときの土台を作るために用いられます。現在、臨床試験に入ったところです。


■根気よく治療に取り組む

手術の効果を十分に得るためには、手術前にプラークコントロールをしっかり行い、ある程度歯肉の炎症を改善し、 口の中の環境を整えておくことが必要です。 また、手術前のプラークコントロールは、患者が正しい歯磨きの方法や習慣を身につけるためにも重要です。 手術を受けても、その後に、しっかりと歯磨きを行なわなければ、再発の危険性が高くなるからです。
手術後は約2ヶ月間、経過観察を行ないます。手術の回数にもよりますが、手術前の基本治療から、 手術後の経過観察まで含めると、治療期間は1年間程度になります。


【追記】
フラップ手術とGTR法には健康保険が適用されますが、「バイオリジェネレーション法」 には健康保険が適用されません。しかし「先進医療」として実施することが認められた 全国十数ヶ所の医療機関では、他の健康保険診療と組み合わせて、これらの再生医療法の部分のみを 自己負担で受けることができます。