子供の鬱病(うつ病)

子供の鬱病(うつ病)では、イライラして怒りっぽくなる、過眠といった、大人の鬱病(うつ病)ではあまり見られない、子供に特有な症状が現れます。 子供の鬱病(うつ病)は、家族など周りの人が早めに気付き、子供に寄り添って治療をサポートしていくことが大切です。


■子供の鬱病(うつ病)の特徴

かつては”鬱病は大人がかかる病気”というイメージがありましたが、現在では、子供も鬱病になると考えられています。 ここでいう「子供」とは、一般に「6~18歳」を指しています。 子供の鬱病は、12歳ころから増え始め、13~14歳になると急に増加し、発症率は大人と大差がなくなってきます(下図参照)。 一般に13歳頃は多感な時期で、中学生になり、生活環境や人間関係の変化などが大きくなります。 こうしたことが精神的なストレスとなって、鬱病が増加すると考えられています。 性格的な要因と環境的な要因が関係するのは、大人の場合と同じです。 ただ、子供の鬱病では、環境的な要因がより大きくなります。 いじめなどの心理的につらい体験、あるいは育つ環境の問題が発症のきっかけとなる場合もあります。 鬱病の診断基準は大人も子供も同じですが、子供の鬱病に特有の症状として、イライラして怒りっぽくなる、過眠、過食の3つが挙げられます。 こういった子供に特有の症状があることを考慮して診断します。

年齢と鬱の発症との関係


●子供の鬱病に特有の症状

子供の鬱病では、大人の鬱病とは異なる症状が現れることがしばしばあります。 鬱病の代表的な症状の1つが「憂鬱な気分」ですが、子供の鬱病の場合は「イライラして怒りっぽくなる」ことがあります。 また、睡眠の異常では、大人の場合は「睡眠不足」として現れることが多いのですが、子供の場合は「過眠」が現れることがあります。 そして、食欲の異常は、大人では「食欲減退」が多いのですが、子供の場合は「過食」が現れることがあります。 イライラして怒りっぽくなる、過眠、過食は、鬱病が発症していなくても、反抗期や思春期の子供によく見られるものです。 そのため、こうした症状が現れていても、家族など周りの人が鬱病と気付きにくいといえます。 子供の鬱病の診断基準は、基本的に大人と同じですが、子供に現れる特有の症状(下図参照)を考慮して診断されます。 「憂鬱な気分」または「イライラして怒りっぽくなる」と、「興味や喜びの消失」の、どちらか1つを含む5つ以上の症状が、 ほとんど一日中、2週間以上続き、日常生活で何らかの問題が生じている場合に、鬱病と診断されます。

子供の鬱病に特有の症状


●子供の鬱病が疑われる場合

子供の様子に異変を感じるような場合は、まずはスクールカウンセラー養護教諭などに相談するとよいでしょう。 鬱病が疑われる症状に気付いたら、子供の鬱病を診断するのは困難なため、子供向けの児童思春期精神科のある医療機関を受診することが勧められます。 身近な医療機関に児童思春期精神科がない場合などは、かかりつけの小児科を受診して相談すると、 体の不調などがあるかどうかを調べたうえで、鬱病が疑われる場合は、専門医を紹介されることがあります。 子供が「死にたい」などと言ったり、自殺に繋がりそうな行動を起こしたりする場合は、早急に医療機関を受診してください。 時に思春期の場合は、心が不安定で、衝動的な行動をとることがあります。 命に関わる危険に繋がる場合もあるので、家族など周囲の人が子供の異変に早く気付くことが大切です。 また、子供は表現が未発達なことがあるため、診断には学校や家族からの情報が必要になる場合もあります。 死について考えたり、自殺に関わる行動を起こしたりする場合は、早急に医療機関を受診してください。


■子供の鬱病の治療

子供の鬱病の治療は重症度によって異なる

子供の鬱病では、重症度に応じた治療が行われますが、家族など周りのサポートがとても大切になってきます。


●軽症の場合

鬱病の原因を取り除くために、医師が本人や家族などに指導を行ったり、家族を支援したりします。 本人や家族に病気の情報を伝える心理教育、家庭や学校で体を休めるようにする環境調整、 患者さんの気持ちを聞いて理解し共感する支持的介入、患者さんを見守る家族への支援が行われます。

▼環境の調整
できるだけ本人にストレスがかからないように、家庭や学校で体をゆっくり休めることができるようにします。

▼共感などの支持的介入
家族にできることもあります。まずは本人と一緒に病気や治療について理解を深めることです。 一般に鬱病を発症している子供は、自分を責める傾向があり、家族などから責められていると感じると、さらに自己評価が下がってしまい、 症状の悪化に繋がる恐れがあります。 家族など周囲の人は、子供の気持ちによく耳を傾け、その気持ちを理解し、共感することが大切です。 その場合のポイントとなるのが、「叱らないこと」です。 家族などから叱られると、子供は”守ってくれる人がいない”などと孤独感を抱くことがあります。 なるべく叱らないことも大切です。
また、子供が感じたことに、「なぜ?」「どうして?」などという問いかけをすることも、子供を追い詰めてしまう可能性もあるので避けてください。 また、「褒める」ことを医師から指導される場合があります。 否定的な考え方になっている子供に対して、日常の些細な行動の中から良いところを見つけてあげましょう。 褒めることは、子供の鬱病の予防にも繋がると考えられます。

▼生活リズムの改善
病院での治療と並行し、生活リズムの改善に取り組みます。毎日決まった時刻に寝て起きて、3食きちんと食べ、間食を減らします。 毎朝決まった時刻に朝の光を浴びるだけでも効果があります。 一定の運動をすることも勧められます。

●中等症・重症の場合

これらに加え、必要に応じて薬物療法や、考え方や行動を見直していく認知行動療法などの精神療法が行われる場合があります。

◆薬物療法
薬物療法に関しては、大人に有効な薬が子供には有効でない場合があるので、注意が必要です。 また、24歳以下の人が抗鬱薬を使用した場合、自殺関連行動が増加することが明らかになっています。 この場合は、服用の中止を含めた速やかな対応が必要になります。すぐに担当医に相談してください。
大人で有効な三環系・四環系抗鬱薬は、子供には効果がないことがわかっています。 一部のSSRIは海外で有効性が証明されていますが、日本では、子供に対して安全性と有効性が検証されていません。 薬を使う際のメリット・デメリットを担当医とよく相談しましょう。 また、大人では睡眠薬や気分安定薬を使うことがありますが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、成長段階にある子供には極力避けます。

▼精神療法
鬱病の患者さんに多く見られる否定的な考え方や行動パターンを見直していく、認知行動療法が行われる場合があります。 なお、子供の鬱病の治療で行われる精神療法は、現時点で日本では有効性が十分に検証されていないため、医師とよく相談することが重要です。

子供の鬱病の治療


●復学する場合は適切な配慮が大切

子供の鬱病は、よくなったり悪くなったりという経過を経るため、よくなってから半年から1年ほどは治療を継続します。 学校を休んでいる場合には復学する際に適切な配慮が必要です。勉強が進んでしまっていたり、友達と共通の体験を持てなかったりして、 クラスになじめないなどの問題が起きることがあります。すると、焦りが生じて無理をしたり、自己評価が下がったりして、再発に繋がることもあります。 保健室登校の許可をもらう、宿題の量を調節してもらうなど、環境整備をしながら慎重に経過を見ていくようにします。


鬱病は再発を繰り返すほど重くなり、再発しやすくなります。子供もの鬱病を重症化させないためにも、いつもと違うと感じたら早めに受診することが大切です。