慢性頭痛(片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛)の薬物療法
痛みが起きたときの薬の他、予防薬が使われることもある
『慢性頭痛の薬物療法』において、薬の使用によって十分な効果を得るためには、
慢性頭痛のタイプを正しく把握し、適切な薬を使うことが重要です。
片頭痛の場合には、薬を使用するタイミングにも注意が必要です。
慢性頭痛に悩む人の多くが、市販薬を使って頭痛に対処しています。
頭痛の頻度が月に1回程度で、市販の頭痛薬(消炎鎮痛薬)を飲んで2時間以内に痛みが治まるようなら、市販薬で対処するのもよいでしょう。
しかし、たびたび頭痛が起こって市販薬を月に何回も使わなければならなかったり、
薬を使っても痛みがなかなか治まらない場合には、医療機関を受診して治療を受けることが勧められます。
●頭痛のタイプ別の薬の使用法
薬の使用によってに十分な効果を得るためには、頭痛のタイプを正しく把握し、適切な薬を使うことが重要です。 片頭痛の場合には、薬を使用するタイミングにも注意が必要です。 また、薬の使いすぎが原因で、頭痛が悪化することがあるので、薬を乱用しないようにしましょう。
◆緊張型頭痛に使われる薬
「緊張型頭痛タイプ」の頭痛には、主に「消炎鎮痛薬」が使われます。 また、精神的ストレスが影響していると考えられる場合は 「抗うつ薬」や 「抗不安薬」が処方されることがあります。 思い当たるような精神的ストレスがなくても、 頭痛が月に15日以上起こる場合には、抗うつ薬などが使われることがあります。
◆片頭痛に使われる薬
「軽い片頭痛」の場合には、「消炎鎮痛薬」や「エルゴタミン製剤」が処方されます。
消炎鎮痛薬は、炎症を鎮めて痛みを抑える薬で、痛み始めたらすぐに、遅くとも30分以内に服用するのが効果的です。
エルゴタミン製剤は、拡張した血管を収縮させる薬です。
頭痛が起きて時間が経ってしまうと効果がないので、痛み始めたらすぐに飲みます。
「強い片頭痛」の場合には、「トリプタン製剤」が処方されます。
この薬は、非常に効果が高く、現在、片頭痛の薬物療法の中心になっています。
トリプタン製剤は、血管の拡張や収縮に関係する「セロトニン」という神経伝達物質に類似した構造をしており、
拡張した血管を収縮させる働きがあります。
また、過敏になった三叉神経を鎮める働きや、血管やその周囲の炎症を抑える作用もあります。
トリプタン製剤は、痛み始める前に使っても効果はなく、痛みが起きてから早めに使います。
以前は、痛みが強まってから使うことが勧められていましたが、現在は痛みが強まることが予測される場合には、
早めに使う方が十分な効果を得られるといわれています。
トリプタン製剤の剤型には、錠剤、点鼻薬、注射薬があります。
片頭痛には、主に錠剤と点鼻薬が使われます。片頭痛に伴う吐き気で錠剤を服用しにくい場合などには、点鼻薬が勧められます。
なお、エルゴタミン製剤とトリプタン製剤は、血管を収縮させる働きがあるため、
「狭心症」や「脳血管障害」などがある場合には、使用できません。
またエルゴタミン製剤とトリプタン製剤を併用することもできません。
続けて使う場合には、間隔を24時間あけるようにします。
<片頭痛の予防療法>
偏頭痛が月に2回以上起こる場合には、「予防療法」を受けることが勧められます。 片頭痛の予防療法では、血管の拡張や収縮を安定させる働きのある 「カルシウム拮抗薬」が処方されます。 頭痛の頻度が減り、痛みが軽くなると同時に、トリプタン製剤などの効きがよくなる場合があります。
<合併している場合>
片頭痛と緊張型頭痛が合併している場合には、まず、片頭痛に対する治療が行なわれます。 片頭痛をコントロールできるようになると、緊張型頭痛が起こりにくくなることがよくあります。 それでも、緊張型頭痛が改善しない場合には、緊張型頭痛に対する治療が追加されます。
◆群発頭痛
群発頭痛には、「酸素吸入」が効果があります。
医療用の純酸素を10~15分吸入すると、激しい痛みがひいていきます。
ただし、市販されているスポーツ用の酸素などでは濃度が足らず、効果を得られません。
肺の病気に用いられる在宅酸素療法のレンタルシステムを利用すると、自宅で酸素吸入を行なうことができます
(ただし、群発頭痛には健康保険は適用されません)。
また、群発頭痛には即効性のある「トリプタン製剤の皮下注射」が適しています。
ただし、日本では現在自己注射はできず、頭痛の起きている間に医療機関で注射を受ける必要があります。
●薬物乱用頭痛
消炎鎮痛薬などの過剰使用が頭痛を引き起こす
頭痛薬を過剰に使い続けると、痛みに対する感受性が高まり、頭痛が悪化することがあります。
このような頭痛が「薬物乱用頭痛」です。消炎鎮痛薬で起こることが多いのですが、
エルゴタミン製剤やトリプタン製剤で起こることもあります。
薬物乱用頭痛の場合には、「頭痛のために薬を飲む→薬を飲み過ぎて頭痛が悪化する→さらに薬を飲む」という悪循環が起きています。
この悪循環を断ち切るため、頭痛薬の服用を1~2週間ほど中止します。
頭痛薬を中止してつらい場合は、予防療法を行い、症状に応じて抗うつ薬やステロイド薬などを使用することがあります。
しかし、頭痛薬の過剰な使用が頭痛を引き起こすことを理解することで、
あまりつらさを感じずに薬物乱用頭痛から抜け出すことのできる人も少なくありません。
薬物乱用頭痛が疑われる場合は、早めに受診し、医師に相談することが大切です。
薬物乱用頭痛に陥らないためには、頭痛薬の服用は「1ヶ月に10日以内」を目安にしてください。
◆薬物乱用頭痛の危険性の目安
頭痛薬を月に10日以上、かつ3ヶ月以上継続して使用している場合には、薬物乱用頭痛に注意が必要です。 消炎鎮痛薬の場合は約1年間、トリプタン製剤の場合は約半年間にわたって月に10日以上使用すると、 薬物乱用頭痛の危険性がかなり高まると考えられます。