薬物乱用頭痛(薬の使い過ぎによる頭痛)

頭痛があるたびに薬を使い続けていると、使用過多による新たな頭痛が起こることもあります。 頭痛薬を使っているのに、毎日のように頭痛があり、以前より悪化しているような場合は、「薬物乱用頭痛」かもしれません。 片頭痛や緊張型頭痛などのある人が頭痛薬などを使い過ぎていると、薬が効かなくなってきて、ますます頭痛に悩まされる恐れがあります。 特に片頭痛のある人、市販薬を自分の判断で使い、鎮痛薬を飲むことが習慣化しているような人は注意が必要です。 鎮痛薬を使い過ぎている、頭痛の質が変わってきたなど、思い当たる節があったら要注意です。 このような「薬の使い過ぎによる頭痛」は適正な治療で改善できることが多いので、専門医を受診することが大切です。 頭痛薬をどのくらいの頻度で、どのくらいの期間使うと、薬の使い過ぎによる頭痛になるかといった科学的な調査結果はありませんが、 多くの頭痛専門医の意見を取りまとめて、診断基準が作られており、頭痛を起こす頻度や薬の服用の状態などで判断します。 薬物乱用頭痛の定義は、「1ヶ月に15日以上頭痛があり、定期的に月10日以上頭痛薬を使い、その状態が3ヶ月以上続いている」 とされています。 治療では、頭痛の原因となっている薬を中止して、別の種類の頭痛薬が処方されます。 また、もともとの頭痛に合わせて予防的な薬も処方され、続いて、本来の頭痛の治療を行うことで、頭痛をコントロールしていきます。 薬の使い過ぎによる頭痛は、これらの治療で徐々に症状が軽減していきます。


■薬の使い過ぎによる頭痛とは?

薬を飲む回数や量が増えると薬が効かなくなってくる

日本では、成人の3人に1人、人数にすると約3000万人が慢性的な頭痛に悩まされているといわれています。 北里大学病院の頭痛外来を受診した患者さんのうち、14.6%が、薬の使い過ぎによる頭痛でした。 病院によっては、4割ほどにもなるとの報告もあり、いずれにしろかなりの人が、薬の使い過ぎによる頭痛で悩んでいることになります。 薬物乱用頭痛は、慢性的な頭痛の一つで、片頭痛緊張型頭痛などのある人、いわゆる”頭痛もち”の人が、 市販の頭痛薬や医師から処方された痛み止めの薬、片頭痛の治療薬であるトリプタンなどを使い過ぎることが原因で、 かえって毎日のように頭痛が起こるようになった状態を薬物乱用頭痛(薬剤の使用過多による頭痛)といいます。 この薬の使い過ぎによる頭痛は、人口の1~2%はいると考えられています。 薬の使い過ぎが原因で起こる頭痛の約8割は、もともと片頭痛がある人です。 片頭痛は女性に多いため、薬の使い過ぎによる頭痛も女性に多く、患者さんの約70%は女性が占めています。 また、社会人で片頭痛や緊張型頭痛のある人は、仕事を休めずに頭痛薬に頼ることで対処しているうちに、 薬の使い過ぎによる頭痛になるケースも少なくありません。
薬物乱用頭痛の特徴は、「ほぼ毎日、漫然と続く痛み」で、我慢できないほど痛いというわけではありません。 片頭痛があると、「また激しい頭痛が起きるかもしれない」という不安から、早め早めに頭痛薬を使い、 その結果、薬物乱用頭痛が起き、「毎日だらだらと頭痛が続き、使用回数が増えがちです。 時々激しい片頭痛に襲われる」という状態になります。 すると、患者さんの不安はさらに高まり、頭痛薬を手放せなくなるという悪循環に陥ります。
頭痛は、一次性頭痛と二次性頭痛に大別されます。 一次性頭痛は、原因となるほかの病気がなくて起こる頭痛で、慢性的な頭痛の代表とされる「片頭痛」や「緊張型頭痛」、 目の奥に激しい痛みが起こる「群発頭痛」などがあります(⇒「慢性頭痛」)。 二次性頭痛は、何らかの病気があり、その症状の一つとして起こる頭痛で、 原因としては、脳の動脈にできたこぶ(動脈瘤)が破裂して起こる「くも膜下出血」など、命に関わる病気ということもあります。 薬物乱用頭痛は、二次性頭痛に分類されます。


■薬物乱用頭痛の原因

薬の使い過ぎによる悪循環
もともと偏頭痛のある人に、薬物乱用頭痛が起こりやすい

頭痛があったとき、鎮痛薬を使えば、通常は痛みが治まります。ところが薬を使い過ぎていると、脳などの中枢神経での痛みの感受性が変化し、 少しの刺激でも痛みを感じやすくなります。その結果、だんだん薬が効かなくなり、むしろ痛みが悪化してしまうのです。 痛みがあればまた薬を使うという悪循環を来し、病状はどんどん悪化してしまいます。 薬物乱用頭痛は、偏頭痛を持つ人や、片頭痛と緊張型頭痛を併せ持つ人に起こりやすいといわれています。 原因となる主な頭痛薬には、市販の頭痛薬、医療機関などで処方される鎮痛薬、片頭痛の治療薬として使われる 「トリプタン製剤」「エルゴタミン製剤」があります。 これらの頭痛薬を使い過ぎると、脳が痛みに対して敏感になったり、痛みを抑える脳の働きが低下したりして、薬物乱用頭痛が起こると考えられています。 薬物乱用頭痛は、どのようなタイプの鎮痛薬でも、原因となりえます。 しかし医師は薬の使い過ぎに気を付け、使用が月に10日を超えないよう、薬を処方しています。 そのため実際に原因になっているのは、自分の判断で使用できる、市販薬の使用によるケースが多くなっています。 また、月経痛や腰痛のなど体の他の部位の痛みがあって鎮痛薬を使い続けることによっても、同じような成分が含まれているので、 薬の使い過ぎによる頭痛が起こる可能性があると考えられています。
つらい慢性頭痛をたびたび経験している人の場合、また頭痛が起こるかもしれないという不安や恐怖感が強くなることがあります。 そのため、自己判断で頭痛薬を飲むようになってしまい、薬を飲む回数や量が増えていきます。 薬を使い過ぎていると、脳などの中枢神経での痛みの感受性が変化すると考えられています。 その結果、頭痛を起こす引き金となる少しの刺激でも、痛みに敏感になり、頭痛の頻度が増えてくることがあるとされています。 また、痛みの性質や痛みが出る場所が変化するなど、頭痛が複雑化して、次第に薬が効きにくくなってきます。 そうなると、さらに薬を使う回数や量が増えることになり、悪循環を繰り返すようになってしまいます。 特に、慢性頭痛に悩まされている人が、自己判断で市販の頭痛薬を日常的に使用することを繰り返した結果、 薬の使い過ぎによる頭痛になるケースが多く見られます。


■薬の使い過ぎによる頭痛の診断

頭痛を起こす頻度や薬の服用の状態などで判断

薬の使い過ぎによる頭痛が疑われる場合は、自分で悪循環を断ち切ることは難しいので、専門医を受診してください。 もともと片頭痛や緊張型頭痛などのある人が、1ヵ月に15日以上頭痛があり、市販の頭痛薬やトリプタンを1ヵ月に10日以上使用している状態が 3ヵ月を超えて続いていると、薬の使い過ぎによる頭痛と診断されます。
頭痛薬をどのくらいの頻度で、どのくらいの期間使うと、薬の使い過ぎによる頭痛になるかといった科学的な調査結果はありませんが、 多くの頭痛専門医の意見を取りまとめて、診断基準が作られています。 頭痛外来などでは、薬の服用が1ヵ月に10日以上にならないように薬の処方や服用の指導が行われています。 薬の使い過ぎによる頭痛の診断基準に当てはまらない場合でも、薬の効きがあまりよくないのに頭痛薬を使い続けている人や、 頭痛薬を使うことが習慣化している人も、悪循環が始まっている可能性があるので、受診が勧められます。 受診する際には、市販薬を含め使用しているすべての薬の実物を持参するか、薬の名前を必ず医師に伝えましょう。


●薬物乱用頭痛が疑われる場合

上記のように、薬物乱用頭痛は「1ヶ月に15日以上頭痛があり、定期的に月10日以上頭痛薬を使い、その状態が3ヶ月以上続いている」とされています。 具体的には、次のような場合に、薬物乱用頭痛が疑われます。

  • 月に10日以上、頭痛薬を使う。
  • 痛みにメリハリがなく、毎日のように頭が痛む。
  • 他の頭痛薬を飲んでも、すっきりすることがない。
  • 数ヶ月前に比べ、頭痛のある日が増している。

自己判断で頭痛薬を使っていて、何か思い当たることがあれば、注意が必要です。