ウィルス性肝炎

肝炎を引き起こすウィルスには、 主にC型肝炎B型肝炎があります。 日本では、この2つのウィルスに感染している人が300~400万人いると考えられていますが、多くの人が感染に気付いておらず、治療を受けていないのです。 ウィルスが原因で肝炎を発症し、慢性肝炎へと進行すると、やがて肝硬変や肝臓癌に進むことがあります。 肝臓癌の原因の約8割を、C型肝炎とB型肝炎が占めています。 しかし、新しい抗ウィルス薬の登場など、治療法は大きく進歩しているので、どちらも肝炎ウィルス検査で早期発見し、治療に取り組むことが大切です。


■ウィルス性肝炎とは?

肝臓癌のもっとも大きな原因。検査で発見してぜひ治療を。

ウィルス性肝炎B型肝炎ウィルスC型肝炎ウィルスの感染が原因で起こり、肝臓癌に進むことがあります。 肝炎ウィルスに感染している人は、B型が110~140万人、C型が190~230万人と推定されています。 一方、治療を受けているのは、B型とC型を併せて約80万人と推測されています。 肝炎ウィルスに感染しているのに、気付いていない人や治療を受けていない人が、非常に多いことがわかります。 ウィルス性肝炎は、急性肝炎を起こしたり、慢性肝炎を起こしてそれを放置していると、肝硬変、そして肝臓癌へと進む可能性が高まります。 B型肝炎の場合は、慢性肝炎から肝硬変を経ずに、直接肝臓癌になるケースがあります。 肝臓は”沈黙の臓器”ともいわれ、病気があっても症状が現れないことが多く、 急性肝炎では、黄疸、倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐などの症状が現れることもありますが、風邪などと間違えたり、 症状が軽く済んでしまったりして気が付かない場合が多いのです。 そのため、ウィルス性肝炎に気付かないうちに、慢性肝炎や肝硬変、肝臓癌に進んでしまう人がいます。 B型肝炎もC型肝炎も現在は治療法が進歩してコントロールできる病気になっているので、1人でも多くの人が肝炎ウィルス検査を受けて、 治療につなげていくことが重要です。

●B型肝炎を起こす原因

血液や体液を介して感染するため、かつては母子感染が主な感染源でしたが、1986年にワクチンなどによる母子感染対策がとられてからは、 出産時の感染はほぼ防げるようになりました。1986年より前に生まれた人は、ぜひ一度は検査を受けてください。 現在は性交渉による感染などが多くを占めています。感染すると急性肝炎を起こしますが、ほとんどの場合は自然治癒します。 しかし、ウィルスのタイプによっては、慢性肝炎になることがあります。

●C型肝炎を起こす原因

原因の1つに、輸血による感染があります。輸血用の血液を高い精度で検査できるようになったのは1992年なので、 それ以前に輸血を受けたことがある人は検査を受けるとよいでしょう。 不衛生な状態でのタトゥー・入れ墨・ピアスの穴開け、剃刀の共用などが原因となる場合もあります。


■ウィルス性肝炎の検査

一生に一度は肝炎ウィルス検査を
血液検査で、ウィルスの有無がわかる

国が力を入れて実施している「肝炎ウィルス検査」を一生に一度は受けることをお勧めします。 特に感染しているリスクがあると考えられる場合(下図参照)は、早目に検査を受けてください。 肝炎ウィルス検査は、全国の保健所指定医療機関で受けられます。 無料で受けられる自治体もあれば、一部自己負担が必要な自治体もあるので、各自治体の保健所に問い合わせてください。 肝炎ウィルス検査は、血液検査で行われます。B型肝炎ウィルス検査は、HBs抗原の、 C型肝炎ウィルス検査HCV抗体の有無を調べます。結果が出るまでに1~2週間かかります。 検査結果が陰性の場合は、C型やB型の肝炎ウィルスに可能性はほぼありません。 陽性の場合は、感染している可能性が高いため、必ず医療機関を受診して、詳しい検査を受けてください。

肝炎ウィルスに感染しているリスクがあると考えられる場合


■B型肝炎の治療

核酸アナログやインターフェロンによる治療が行われる

B型肝炎は、ウィルスを完全に排除するのが難しい場合が多いため、ウィルスの増殖を抑え、肝臓の状態を維持して、 肝硬変や肝臓癌に進むことを抑えることが治療の目的になります。 主な治療法には、核酸アナログという飲み薬とインターフェロンの注射があります。

▼核酸アナログ
B型肝炎ウィルスの増殖を抑える抗ウィルス薬の一種である「核酸アナログ」を服用します。 使っている患者さんのおよそ90%程度の患者さんでウィルスの量が減少し、肝機能が改善します。 ただし、ウィルスがなくなったわけではないので、核酸アナログは数年~十数年にわたって飲み続けます。 自己判断で薬をやめると、ウィルスが再び増加し始めるので注意します。医師の指示を守って適切に服用してください。 近年、高齢の患者さんを中心に、核酸アナログを長期にわたって飲んでいる人に、 腎機能の低下や骨密度の低下などの副作用がみられるようになってきました。 そこで、新しい薬の開発が進められ、2017年に新しい核酸アナログである「テノホビル アラフェナミド」が登場しました。 この薬は、従来の核酸アナログに比べて、腎機能を表すe-GFRの値の低下は平均で1/4に、骨密度の低下は1/3に抑えられます。 新たに治療を始める人にとっては、副作用の心配が大きく軽減されました。 ただし、胎児への薬の影響が懸念されるので、妊娠を希望する場合は、担当医に相談してください。 また、適切に服用を続けないと、核酸アナログが効かなくなる耐性ウィルスができてしまう場合があります。

▼インターフェロン
インターフェロンはウィルスに感染したときに体内で作られるたんぱく質の一種で、ウィルスを排除したり、ウィルスの増殖を抑える働きがあります。 人工的に作ったインターフェロンを注射で補う治療で、週1回の注射を48週間、通院して受けます。 インターフェロンの効果が現れる患者さんの割合は全体の20~40%です。 有効率は核酸アナログより低いものの、インターフェロン治療で改善できた場合は、30~40%の患者さんは薬をやめることができます。 ただし、ウィルスを完全に排除できたわけではないので、その後も半年に1回程度の定期的な検査が必要です。 インターフェロンは強い副作用が出やすく、治療の初期には頭痛や発熱などのインフルエンザのような症状、 かゆみや発疹のような皮膚症状が現れたり、中期には吐き気などの消化器症状、後期には脱毛が起こることがあります。


■C型肝炎の治療

新しい抗ウィルス薬による治療で完治も期待できるように

C型肝炎ウイルス(HCV)に持続的に感染していると、高い確率で肝炎が慢性化して、その後、肝硬変へ進展し、肝癌を引き起こします。 C型肝炎の治療の目的は肝癌の発生を防ぐためであり、「抗ウイルス療法」でHCVを排除することが第一目標となります。 1992年から開始されたインターフェロン療法は、2004年にはペグインターフェロン療法へと進化を遂げ、 薬剤の作用時間が長くなったことで週1回の注射で済むようになりました。 現在ではそれに代わり、高い抗ウイルス効果を持ち、副作用が少ない「直接作用型抗ウイルス薬」という飲み薬が治療の基本となっています。


■治療費の問題

抗ウィルス薬による治療は非常に有効で、患者さんの体への負担も少なく、期待されています。 しかし一方で、B型肝炎では薬による治療が長期に及ぶこと、C型肝炎では薬の価格が非常に高価であることなどから、経済的な負担が大きく、 治療を受けるのをためらう原因の1つにもなっています。 これらの経済的負担を減らす制度として、医療費助成制度があります。 B型肝炎やC型肝炎で、内服の抗ウィルス薬による治療だけでなく、インターフェロンによる治療も対象になります。 各自治体の保健所に確認するとよいでしょう。