肘部管症候群

小指と薬指が痺れる場合は、肘部管症候群の可能性があります。 治療をしても、回復に時間がかかることがあるため、症状に気付いたら、すぐに治療を開始しましょう。

■肘部管症候群とは?

肘の内側を通る尺骨神経が圧迫されて痺れが起こる

肘には、「尺骨神経」という太い神経があり、肘の内側にある、筋肉や骨に囲まれた靱帯の中の「肘部管」という空間を通っています。 小指と薬指の指先まで伸びていて、小指と薬指の小指側の感覚を司っています。 「肘部管症候群』では、何らかの影響で肘が変形するなどして、肘部管の内部で尺骨神経が圧迫されることで、 小指と薬指が痺れたり、感覚が鈍くなったりします。そのままにしていると、指の感覚がほとんどなくなり、指先に力が入らなくなっていきます。


■肘部管症候群の原因

肘の使い過ぎや怪我などにより起こりやすい

肘部管症候群は、長年、肘を酷使してきた人に起こりやすいといわれています。 肘を酷使し続けると、やがて肘の骨に棘やでっぱりができることがあります。 あるいは肘周辺の筋肉の発達などによって、肘部管の中の尺骨神経が圧迫されます。 具体的には、手や腕を酷使する職業の人、子供のころなどに怪我をしたことがある人に起こりやすくなります。 テニスや野球、柔道など、スポーツ選手にも多く見られます。 また、骨や関節は加齢によって変形しやすくなるため、加齢に伴い発症しやすくなります。 特に、中高年に多く見られます。


■肘部管症候群の症状

手指が痺れる、動かしづらい、手指の根本の筋肉が痩せる

肘部管症候群がある人は、肘を曲げた姿勢を続けると、痺れが強くなります。 肘を曲げると、尺骨神経が伸ばされ、尺骨神経への圧力が強くなるためです。 例えば、本を手で持って読んだり、頬杖を突く姿勢などで、症状が出やすくなります。 このほか、箸を使いにくくなったり、指を広げたり閉じたりしにくくなるなどの症状も現れるようになります。 尺骨神経は、小指と薬指の小指側の感覚のほか、手指の根本の筋肉の運動を司る神経にも関係しています。 そのため尺骨神経が圧迫されると、手指をうまく動かせなくなっていくのです。 それに伴い、手指の根本の筋肉が痩せ、さらには全体的に痩せていきます。
肘部管症候群は、そのままにしていると、やがて小指と薬指側の感覚が、ほとんどなくなります。 また、手指を使う細かい作業が難しくなり、日常生活にかなりの支障を来すようになります。 小指と薬指の小指側の感覚が鈍くなったり、細かい作業がしづらくなったなどの症状が現れた時には、神経の痛みはかなり進んでいます。 一般的に神経の回復は1日1mmとされています。したがって、神経が障害されている部分から指先まではかなり距離があるので、回復には数年かかります。 症状を進行させないためにも、痺れなどの症状に早く気付くことが大切です。 小指と薬指の小指側が痺れるという場合は、すぐに整形外科を受診してください。 また、セルフチェックを行い、疑わしい場合も受診しましょう。

【セルフチェック】

  • ▼小指と薬指が痺れる
  • ▼肘を曲げた姿勢を続けると、痺れが強くなる
  • ▼箸を使いにくい
  • ▼指を広げにくい・閉じにくい

●重症度の判別

手に電流を流す神経電動速度検査が行われる

肘部管症候群は、「神経伝導速度検査」で重症度が判別されます。 症状のある手に複数の電極を付け尺骨神経が通っている肘の部分に微弱な電流を流します。 この電流が肘から手の電極まで伝わる速さから重症度が判別されます。 重症の場合ほど、電流の伝わる速さが遅くなります。



■肘部管症候群の治療

●治療①薬物療法

薬物療法で神経の炎症を抑えて痺れを軽減する

まずは薬による治療が行われます。 消炎鎮痛薬の飲み薬などで、神経の炎症を抑え、痺れを軽減します。 また、神経を回復させる可能性があるビタミンB12の飲み薬も使われます。 症状が改善しない場合や重度の場合は、早めの手術が勧められます。


●治療②手術

尺骨神経への圧迫を取り除き、移動させる手術などを行う

肘部管症候群のある人は、すでに肘が変形していることが多く、そのまま圧迫が続くと、神経の痛みが進行します。 そのため手術で圧迫を取り除く必要があります。 最も多く行われている手術は、尺骨神経への圧迫を取り除いた後に、尺骨神経を移動させる手術です。 まずは肘部管を囲む靱帯を部分的に切開し、尺骨神経への圧迫を取り除きます。 それから尺骨神経を少し前方へ移動させ、ゆとりをもたせることで、肘を曲げても圧迫されないようにします。 手術時間は1~2時間ほどです。 筋肉の痩せ方がまだ軽度の場合は、手術によって、痩せた筋肉や小指と薬指の小指側の感覚を治すことは可能です。 筋肉がひどく痩せた重度の場合は、手術でも傷んだ神経を完全に回復させることはできませんが、神経の痛みの進行や症状の悪化を食い止めることはできます。


■日常生活での注意点

肘の使い過ぎや肘の曲げ方に気を付ける

肘部管症候群のある人は、手指の痺れが現れ、筋肉が痩せてくるころには、神経の痛みが進行しています。 肘を深く曲げ続けるような動作は、できるだけ減らすように工夫しましょう。