鬱病が治らない場合「双極性障害の可能性」がある

「躁状態」は、本人も周囲の人も気付きにくく、 「双極性障害」が鬱病として治療されている場合があります。 双極性障害の場合、鬱病の薬では改善されません。家族や周囲の人が見逃さないことが、適切な治療につながります。 薬物療法では、中心として使われるのは「気分安定薬」という種類の薬で、その他に抗精神薬が使われることもあります。
生活習慣では、躁状態が現れるのを防ぐために、日々の生活で気を付けるべきことがあります。 ①生活リズムを保つ、禁酒する ②大勢の集まりは避ける・海外旅行の時差に注意する ③休養をしっかりとる
などです。


■双極性障害とは?

鬱病が治らない場合に最も注目すべき病気

鬱病がなかなか治らない、治療しているのに何度も繰り返す、 という場合は、「双極性障害」を疑ってみる必要があります。 双極性障害には、気分が落ち込む鬱状態の時期と、気分が高ぶる躁状態の時期があります。 そのため、鬱状態の時期に鬱病と診断されることがよくあるのです。 あるアメリカの研究によれば、鬱病と診断された人を10年間追跡したところ、約20%の人が、双極性障害に診断が変わっていました。 最初は鬱病と診断されても、その後、双極性障害だとわかってくる場合があります。 双極性障害は、鬱病と治療法が違うため、鬱病の治療をしていてもよくなりません。 抗鬱薬を使うことで、むしろ悪化してしまうこともあります。 双極性障害では、躁状態の見極めが重要になってきます。

●軽症の症状

双極性障害でよく見られるのは、軽い障害である「軽躁」です。 明るく活動的になり、徹夜で仕事をやり遂げたりするなど、目を見張るような頑張りを示します。 本人は気分がよく、周囲の人からも「すごい」「人が変わったようだ」などと評価されるため、 なかなか病気であることに気付きません。

●躁状態の症状

軽躁の場合よりも、いっそう気分が高ぶり、自分が偉くなったように感じられる、怒りっぽくなる、金遣いが荒くなる、 注意散漫になる、おしゃべりになって話し続ける、といった症状が現れます。 また、社会的な常識から逸脱した行動が現れることもあります。 例えば、注意した人と大喧嘩をしたり、暴力に発展したりします。犯罪に繋がってしまうこともあります。 また、衝動的に高額な買い物をしてしまうこともあります。


■双極性障害の特徴

十分に注意して、鬱病と異なる特徴を見逃さない

双極性障害には次のような特徴があります。
鬱病に比べると、一般に発症年齢が若い傾向があります。 25歳までに鬱病と診断された場合は、双極性障害ではないかとと考えてみる必要があります。 再発が多いのも特徴です。鬱病でも再発はありますが、双極性障害の方が多く、4~5回以上繰り返している場合は、 双極性障害の可能性が高くなります。 躁状態と鬱状態が現れますが、鬱状態の方が期間が長く、回数も多いのが普通です。 最初は鬱状態を繰り返し、数年後に初めて躁状態が現れるようなこともあります。 そのため、まず鬱病と診断されやすいのです。

最初は鬱病など他の病気と診断されていて、最終的に双極性障害と診断された人を対象に、 正しい診断がつくまでに何年かかったかを調べる研究がありました。 その結果は平均6.3年で、10年以上かかった人も2割以上いました。 それ以外に、妄想を伴う鬱病の場合や、家族に双極性障害の人がいる場合も、 双極性障害ではないかと考えてみる必要があります。

●非定型型鬱病と似た症状が出ることも

「食べ過ぎる」「眠り過ぎる」「体が鉛のように感じられて動けない」といった症状が現れることもあります。 これらは「非定型型鬱病」でも見られる症状ですが、双極性障害でも現れることがあります。


■診断と治療

診断は精神科の医師の下で。治療は薬物療法が中心。

鬱病と双極性障害を見分けるのは非常に難しいので、鬱病と診断されている人が、 双極性障害かもしれないと疑われる場合には、精神科医の診察を受けることが勧められます。 過去に躁状態を経験しているのであれば、その経験を医師に詳しく話します。 本人が自覚していない場合でも、家族など周囲の人が、どのようなことがあったのかを伝えるとよいでしょう。

●薬による治療が基本

双極性障害の治療は、薬物療法が基本となります。中心となるのは、「気分安定薬」という種類の薬です。 それに加え、最近は「抗精神薬」もよく使われるようになってきました。 これらの薬は、一部は躁状態に、一部は鬱状態い効果を発揮します。 双極性障害は、症状が繰り返し現れてくる病気です。 そこで、症状を未然に防ぐためにも、症状が治まっている時期も薬は継続するようにします。

●抗鬱薬には注意が必要

双極性障害の治療に抗鬱薬はあまり使われず、逆に抗鬱薬を単独で使うのは望ましくないとされています。 気分安定薬や抗精神薬と併用することはありますが、それでも十分注意が必要になります。 抗鬱薬を使用した場合、一時的に鬱状態がよくなることはあります。 しかし、その後に躁状態が現れたり、躁状態と鬱状態を短期間で繰り返すようになったりする危険性があるのです。

●生活習慣にも気を付ける

薬による治療以外に、患者さん自身が気を付けるべきことがあります。 最も重要なのは、生活のリズムを保ち、睡眠時間を確保することです。 睡眠が短くなると躁状態になりやすいので、最低でも6時間の睡眠はとるようにします。 アルコールは睡眠を乱すため、禁酒します。大勢が集まる会合や旅行は、刺激が強く、躁状態を招くきっかけになるので、 できるだけ避けるようにします。海外旅行は時差で睡眠が短くなりやすいので、その点でも注意が必要です。 刺激の強いイベントがあった場合には、その後にしっかり休養をとるようにします。

こうした点に注意することが、症状が現れるのを予防することに役立ちます。