鬱病の薬の使い方は正しいか?

鬱病の薬は、効くまでに日数がかかり、副作用があっても、後から効果が現れてくることがあるので、続けることが大切です。 自分に合った薬を適切な量で、正しい期間服用すれば、鬱病の改善が期待できます。


■鬱病の薬

効果は大きいが、使いかたにさまざまな注意が必要

鬱病に対して、「抗鬱薬」を中心とした薬物療法が行われることがあります。 抗鬱薬は効果は大きいのですが、使い易い薬ではありません。 いろいろな種類がありますが、最初に使った薬だけでは十分な効果が得られないことも多いのです。 アメリカで行われた大規模な研究でも、最初に使用した抗鬱薬だけで症状が消える人は、 全体の4割弱であるという結果が出ています。 また、抗鬱薬は効果が現れるまでに日数がかかりますし、比較的副作用が出やすい薬でもあります。 また、薬が効いて症状がなくなったとしても、「再燃」(症状がぶり返すこと)を防ぐため、 薬の服用を続けなければなりません。


●抗鬱薬の種類

抗鬱薬は5つの種類に分けられます。「三環系」「四環系」は、古くからある抗鬱薬です。 これに対し、比較的新しい抗鬱薬が、「SSRI」「SNRI」「NaSSA」の3つです。 鬱病を発症しているときには、気分や意欲に関わる脳内の「神経伝達物質」が、 正常に働かなくなっています。抗鬱薬には、そうした物質の働きを調整する働きがあると考えられています。

●症状に応じて他の薬も併用する

鬱病の治療では、「抗不安薬」「睡眠薬」を一時的に使用することがあります。


■抗鬱薬の使いかた

1種類の抗鬱薬を少量から使い始める

鬱病の治療で抗鬱薬を使うかどうかは重症度によって違います。 中等症・重症に対しては、ほとんどの場合、抗鬱薬が使われます。 軽症に対しては、抗鬱薬が使われる場合と使われない場合があります。 抗鬱薬で治療する場合、まず1種類が処方されます。多くは新しい種類の抗鬱薬から選ばれます。 こちらの方が、副作用が比較的少ないためです。最初の抗鬱薬が効かなかった場合には、別の種類の薬に替えます。

●症状が治まっても半年から1年続ける

抗鬱薬は少量から使い始め、次第に量を増やしていきますが、効き始めるまでに2~3週間かかります。 効果がなければ薬の種類を替えますが、そうすると、効果が現れるまでに、さらに2~3週間かかってしまいます。 効果があった場合でも、症状がなくなる(寛解)までに2~3ヵ月間は必要です。 また、そこで薬をやめると、再燃することがあります。それを防ぐためには、症状がなくなった後も、 半年から1年は薬の服用を続けます。それによって、回復した状態になります。 ここが鬱病治療の”真のゴール”なのです。


■副作用への対策

慣れてくることもあるので、我慢できればしばらく使う

抗鬱薬で現れる主な副作用は、三環系では口の渇き、便秘、立ちくらみ、四環系では眠気、 SSRIでは吐き気、下痢、性機能障害、SNRIでは吐き気、頻脈、尿が出にくい、 NaSSAでは眠気、体重増加などです。 副作用は薬を使い始めた初期に出やすく、一時的な症状で終わることもよくあります。 また、副作用が先に出て、遅れて効果が現れてくることもあります。 したがって、副作用が出たからといって、それですぐに薬をやめてしまうのはよくありません。 可能なら、少し我慢することも大切なのです。

●自分でできる対策もある

副作用対策としては、副作用を抑える薬を使うこともできますが、患者さん自身にできる対策もあります。 例えば、眠気に対しては、寝る前に服用する、コーヒーやお茶を飲む、顔を洗う、ガムを噛む、目薬をさす といった方法があります。吐き気に対しては、一度にたくさん食べない、夜遅くに食べない、酸味の強いものを食べる といった方法があります。
抗鬱薬の治療では、効果や副作用、さらには副作用対策についても十分な説明が行われ、 その上で患者さんが主治医とよく相談して治療を選択します。 これを治療における意思決定の共有といいます。 こうすることで、副作用が現れても、あまり動じることなく、服用を続けやすくなります。


■鬱病の薬で注意すること

自己判断で服用を中断したり、変更したりしない

抗鬱薬が処方されても、自分で服用を止めてしまう人が多いことがわかっています。 抗鬱薬は効果が現れるまでに2~3週間かかり、副作用が出た後に効果が現れることもあります。 効果がないと感じたり、副作用が出たからといって中断してしまうと、鬱病の症状はなくならず、 効果があったのかどうかさえわかりません。自己判断で服用を中止しないことが大切です。 抗鬱薬は、若い人が使う場合には注意が必要です。不安やイライラがる人(特に24歳以下)が使うと、 その症状が強まり、自殺につながることがあるとの報告があるためです。 若い人が使う場合には、特に慎重に用いる必要があります。

●疑問があれば主治医に相談する

抗鬱薬は原則、単剤から始め、場合によっては2剤を併用することもあります。 ただ、3剤以上の併用で効果が高まることは証明されていません。 抗鬱薬の治療では、薬を増やすだけでなく、常に”引き算の発想”を持って処方することが大切だとされています。 処方されている抗鬱薬が多すぎると感じられた時は、勝手に服用を止めてしまわず、主治医にそれを伝え、 相談するとよいでしょう。