癌の痛みに対する緩和ケア

緩和ケアは、による体や心のつらさの1つ1つを和らげていく医療で、 会話や傾聴によるメンタルケアや、痛みを抑える薬が用いられます。 緩和ケアは、どんなつらさでも、我慢せずに伝えることが大切です。

■緩和ケア

癌と診断されたときから、癌の治療と共に始める

癌と診断され、治療が始まると、体の痛みだけでなく、治療への不安や仕事や家族に対する心配など、さまざまな”つらさ” を抱えることが少なくありません。その1つ1つの”つらさ”をできるだけ和らげ、生活の質を保つための医療が 『緩和ケア』です。緩和ケアというと、かつては”終末期の選択肢として行うもの”という考え方がありました。 一般に、癌と診断されて手術や抗癌剤、放射線療法といった癌に対する治療が行われた後、治療が望めないようなときには、 「ターミナルケア」が行われます。ターミナルケアとは、末期癌の患者さんなどに対する終末期医療のことを指しますが、 緩和ケアも、このターミナルケアと同じような意味にとらえれれていたのです。 しかし、現在の緩和ケアは、癌と診断されたときから、癌に対する治療と並行して行われるべきものとされ、推奨されています。 診断後すぐに始めることにより、患者さんの生活の質が向上するだけでなく、癌に対する治療の効果にもよい影響を与えることがわかってきました。


●生存率を高めることにもつながる

肺癌の患者さんのうち、診断直後から癌に対する治療に加えて緩和ケアを行った人と、癌に対する治療のみを行った人の生存率を 比較した調査があります。その結果によると、診断直後から緩和ケアを行った人は、そうでない人に比べて生存率が髙くなりました。 このように、緩和ケアは癌に対する治療の効果にも関係してきます。癌の進行度に関わらず、癌と診断されたら、 それに対する治療と共に、緩和ケアを始めることが大切なのです。


●緩和ケアの行われ方

さまざまな職種のスタッフが携わってつらさを和らげていく

癌の患者さんの抱えるつらさには、癌そのものによって起こる痛みや、手術など治療に伴う痛みなどによる「身体的なつらさ」 だけでなく、さまざまなものがあります。癌の患者さんは、自分が受ける治療や家族への負担のことなど、 さまざまな不安や心配事を抱えており、「精神的なつらさ」を強く感じることがあります。 また、病気があるために仕事ができないことや、治療費、生活費などによる経済面での不安といった「社会的なつらさ」 も大きなストレスになります。”死んだらどこに行くのだろう”などと思い込む「スピリチュアルなつらさ」を感じる人もいます。 緩和ケアでは、このような癌の患者さんに生じるさまざまなつらさのすべてをできるだけ和らげていくことを目標にしています。 そのためには、主に次のようなことが行われます。

▼メンタルケア
癌の患者さんは、さまざまなつらさについて考え込んでしまいがちです。しかし、いくら考えても一人では答えが出ず、 落ち込んでしまう人も少なくありません。担当医や看護師、緩和ケアチームスタッフなどが患者さんの病室を訪ね、 患者さんのつらい気持ちをよく聞き、会話や傾聴などを通して不安や心配をできるだけ軽くしていきます。

▼鎮痛薬による痛みの緩和
癌そのものによって起こる痛みや、手術や抗癌剤の副作用による痛みは、消炎鎮痛薬やオピオイド(医療用麻薬) などを用いて和らげます。

▼薬の副作用の緩和
抗癌剤などの薬の副作用で、「吐き気」や「便秘」といった症状が現れることがあります。 それぞれの副作用に応じた薬を用いて、できるだけ症状を軽減していきます。

●緩和ケアはチームで行われる

身体的なつらさについては担当医に伝えやすいのですが、精神的なつらさや社会的なつらさ、スピリチュアルなつらさなどは 担当医にはなかなか話しにくいこともあります。そこで、緩和ケアでは、緩和ケアチームとして担当医や看護師だけでなく さまざまな職種のスタッフが加わり、多方面から患者さんとその家族を支えています。
例えば、薬については「薬剤師」、食事や栄養に関することは「栄養士」、精神面については「精神科医」や「臨床心理士」、 仕事や経済面の悩みは「ソーシャルワーカー」などが、それぞれ専門的に対応します。 スピリチュアルなつらさには宗教家が対応することもあります。こうした多くの緩和ケアチームスタッフが連携しながら、 患者さんとその家族のさまざまなつらさに対応していきます。


●どんなつらさも我慢しない

進行癌だけでなく、早期癌を含めたあらゆる癌の患者さんが、何らかのつらさを経験しているものです。 ところが、つらい思いをじっと我慢してしまう人もいます。しかし、どんなつらさも我慢する必要はありません。 担当医や看護師、緩和ケアチームスタッフなど、まずは周囲の医療者に率直に伝えることが大切です。 伝えることで初めて、緩和ケアが始められます。