悪性腫瘍・癌・がん

「悪性腫瘍(malignant tumor)」は、一般に「がん(英: cancer、独: Krebs)」として知られていますが、 専門用語では平仮名の「がん」と漢字の「癌」は同意ではありません。 病理学的には漢字で「癌」というと悪性腫瘍のなかでも特に上皮由来の「癌腫(上皮腫、carcinoma)」のことを指します。 平仮名の「がん」は、「癌」や「肉腫」(sarcoma)、白血病などの血液悪性腫瘍も含めた広義的な意味で悪性腫瘍を表す言葉として使われているからです。 したがって癌ばかりでなく肉腫や血液悪性腫瘍も対象にする国立がん研究センターや各県の「がんセンター」は平仮名で表記します。
ただし、ここでは「悪性腫瘍」「癌」「がん」をすべて「癌」で統一して説明します。


■癌

悪性腫瘍)」は、造血器由来のもの、上皮細胞からなる「癌(癌腫とも呼ぶ)」と 非上皮性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞)からなる「肉腫(にくしゅ)」に大きく分類されますが、 稀にひとつの腫瘍の中で両者が混在する「癌肉腫」というものも発生します。 発生頻度は、肉腫に比べ癌腫のほうが圧倒的に多く発生します。 造血器由来のものには、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫などがあります。 上皮細胞由来の代表的なものには、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、頭頸部の癌(喉頭癌、咽頭癌、舌癌など)などがあります。 一方、肉腫の代表的なものは、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫などが挙げられ、 発生した組織名が冠され、造血器腫瘍を除くとそのほとんどは塊を作って増生するので、固形腫瘍と一括して呼ぶこともあります。

癌予防の手段は、一次予防、二次予防、化学予防の3つに大別されています。 一次予防は生活習慣や食生活の改善により発癌リスクを低下させ、癌に罹らないようにすることを目標とします。 二次予防は早期発見・早期治療により癌死から免れることを目的とするものであり、化学予防はより積極的に薬剤を投与して癌の発生を抑制する方法です。 癌の転移予防や治療後の再発予防などを三次予防ということもあります。


●癌の原因

「癌」の原因を調べたデータによると、「食生活」と「喫煙」がそれぞれ発癌原因の30%を占めています。 これらをはじめとする「生活習慣」に関する要因が、癌の原因の約7割を占めます。 「癌」は、遺伝の影響が大きいと思われがちですが、この調査では、5%程度です。 特に、食事が「癌」の原因になっているというのは意外かもしれませんが、実際には、食事を含めた生活習慣などの環境要因が大きく影響しているのです。 国立がんセンターは、「癌予防のための12か条」で、できるだけ日常生活の中の生活習慣で「癌」の原因を除去していくことを提唱しています。


●癌になりやすい人

▼タバコを吸う人
タバコは発癌物質を多く含んでおり、 肺癌だけではなく、他の癌のリスクも高めます。 禁煙しなければ、他のどんな癌予防を行っても無駄、とまでいわれています。 また、他人の吸っているタバコの煙を吸うだけでも害があります (受動喫煙)。

▼お酒を毎日2合以上飲む人
アルコールには、食道や胃の粘膜を傷つけたり、発癌物質を溶かして細胞内に入りやすくする作用があります。 特に、口や喉の癌、肝臓癌、食道癌のリスクをを高めます。

▼野菜や果物をあまり食べない人
野菜や果物を多く食べている人には、胃癌などの消化器系の癌が少ないことがわかっています。 癌の予防には、いろいろな野菜や果物をバランスよく食べることが大切です。

▼塩辛いものが好きな人
日本や韓国などの食塩摂取量が多い国では、胃癌が多いことがわかっています。 食塩は、胃などの粘膜を傷つけます。食塩の摂取量は1日10g以下に抑えましょう。

▼熱い食べ物や飲み物が好きな人
熱いものを口に入れると、粘膜に炎症を起こし、口や喉、食道の癌になりやすくなります。

▼運動をあまりしない人
運動をしないと癌のリスクが高まりますが、運動をすると「結腸癌」になるリスクが確実に下がることがわかっています。 毎日合計50分程度、ウォーキングなどの運動をすることが理想的です。

▼痩せ過ぎまたは太りすぎの人
閉経後の乳癌や子宮体癌などは、 肥満との関係が深いことが確認されています。 また、極端に太ったり、痩せたりしている人は癌に限らず、標準体重の人より3倍も死亡率が高くなっています。

以上のことからわかるように、健康的な生活習慣こそ最も有効な癌予防法であるといえます。


■癌の主な治療法と特徴

癌の治療法には、手術療法、放射線療法、などの「局所治療」と、抗癌剤、分子標的薬、 ホルモン剤、サイトカインなどの「全身治療」があります。 癌の種類や患者の状態によって、治療法の選択や治療法の組み合わせ、順番などが考えられます。

▼手術療法
癌ができた臓器の一部、場合によっては全体(拡大手術)を癌と一緒に切除する方法。 かつては拡大手術が主流でしたが、近年、切除範囲をできるだけ縮小する傾向にあります。

▼放射線療法
癌を中心に、周辺の臓器を含めて放射線を照射したり、小線源を癌の近くに埋め込んだりする方法。 陽子線治療、重粒子線治療など、新しい治療法も登場しています。

▼抗癌剤
薬剤の投与により、癌細胞など、活発に分裂する細胞の増殖を抑えようとする方法。

▼分子標的薬
癌細胞だけを標的にしたり、癌に栄養を与える血管ができるのを阻害するなど、新しいタイプの抗癌剤。

▼ホルモン剤
乳癌、前立腺癌などのようなホルモンの影響を受けやすい癌に対し、 ホルモン剤などの投与によって癌の増殖を抑えようとする方法。

▼サイトカイン
インターフェロンなどの物質によって、癌の増殖を抑えようとする方法。

これらのうち、抗癌剤、分子標的薬、ホルモン剤、サイトカインなどによる治療法を総称して 「薬物療法」あるいは「化学療法」と呼びます。 薬物療法は、手術療法や放射線療法と並んで、重要な位置を占めるようになってきています。


●癌診断のステップ

最も適切な治療法を選択するためには、「早期発見」が重要であることに変わりはありませんが、 「癌の性格に合わせた治療を行うこと」が大切になります。 適切な治療法を選択するためには、次のようなステップを踏んだ診断によって、癌の性格を突き止めることが必須になります。

▼疑い診断
何らかの自覚症状があって癌を疑ったり、検診などで癌が疑われる場合を指します。

▼確定診断
病理学的な検査などで、癌細胞の有無を確かめます。 癌が確定した場合は、治療法を選択するために、次のような診断が行われます。

▼性格診断
癌の性格を調べます。癌の性格とは、癌組織の分化度(細胞分裂の速さなど)、異型度(細胞の形態上の変化)などといった正常な組織との違いや、 ホルモン受容体が多いか少ないかなどの特徴を指し、これによって、適する治療法が異なります。

▼広がり診断
原発巣の大きさ、リンパ節への転移の有無と程度、遠隔転移の有無などを調べます。 広がり診断の結果は、「ステージ」あるいは「病期」で表され、0~Ⅳ期に分類されます。 これは、「癌組織の大きさ(T)」「リンパ節への転移の有無や状態(N)」 「他の臓器への転移の有無(M)」の3つから進行度を判断するもので、「TNM分類」と呼ばれます。

治療方針の選択では、患者さんの全身状態や、肝臓、肺、腎臓、骨髄などの機能に問題がないかどうかを診断したり、 患者さん自身の希望を確認することも欠かせません。 患者さんは、医師とよく話し合って、各治療法のメリット、デメリットを理解し、場合によっては他の医師のセカンドオピニオンを求めるなど、 積極的に自分の治療法決定にかかわることが大切です。

【関連項目】:『腫瘍マーカー』


■癌の免疫療法

これまで癌の免疫療法としては、体全体の免疫力を高める免疫賦活薬やサイトカイン療法、活性化リンパ療法などが行われてきましたが、 有効性の高いものではありませんでした。 また、免疫細胞に癌細胞だけを攻撃させるワクチン療法などの研究も進められていますが、まだあまり効果が上がっていません。 ところが、最近、癌細胞が免疫細胞の働きを阻止していることがわかったことで、癌の免疫抑制作用を阻害し、 癌細胞を死滅に導いていく免疫チェックポイント阻害薬が開発されました。 免疫チェックポイント阻害薬のニポルマブは、悪性黒色腫や肺癌の非小細胞癌の治療で保険適用されています。 これによって、外科手術、放射線療法、化学療法(抗癌剤)に続く第4の癌治療法として、癌免疫療法が期待されています。