骨粗鬆症

骨粗鬆症とは、「骨の密度が低下して、骨折しやすくなる病気」です。 女性では閉経を迎えるころから、男性ではそれより10年ほど遅れて増え始め、高齢になるほど多くなります。 骨粗鬆症と診断される患者数は、女性980万人、男性300万人の計1280万人。 更年期以降の女性に多く、高齢になるにつれ、男性にも増えてきます。

骨粗鬆症は、年齢とともに骨量(骨の質量)が減少し、最終的には、骨がスカスカになり、もろくなって、骨折しやすくなります。 骨量が減っただけでは自覚症状はなく、もろくなった骨が骨折することで、初めて症状が現れます。 骨折箇所は背骨が最も多く、腰や背中の痛み、円背という症状が出ます。 次いで骨折しやすい場所は手首で、60歳代に多く見られます。 70歳以降に急増するのが、太腿の付け根の骨折(大腿骨頸部骨折)で、多くは転倒によります。 寝たきりの原因になります。


■「骨粗鬆症」とは?

骨量が減り、骨がもろくなる病気
骨折しやすくなり、それが原因で寝たきりになることもある

骨は通常、20歳を過ぎるころからカルシウム分などが減少してもろくなりますが、 骨量が正常範囲を超えて減少した場合は特に、「骨粗鬆症」と呼びます。 骨粗鬆症は、骨量が減少して、骨の中の微細な構造が粗く「鬆」が入ったようにスカスカになって、全身の骨が弱くなり、骨折しやすい状態になる病気です。 骨の内部には、数多くの小さな骨(海綿骨)がスポンジ状に詰まっています。 骨粗鬆症で骨が弱くなると、これらの小さな骨が細くなり、あちこちで折れてしまいます。 すると、スポンジ状の構造が変化して粗くなり、強度が低下して骨折が起こりやすくなるのです。

骨粗鬆症は、すぐに症状が現れるわけではありませんが、放っておくと、もろくなった骨はちょっとしたことで骨折するようになります。 背骨や腕、手首や腕の付け根の骨折を起こしやすく骨折が起これば、日常生活にも支障を来たします。 特に、高齢者が転倒などにより、起立や歩行の要となる太腿の付け根(大腿骨頚部)を骨折すると、 それが原因となって寝たきりになることも少なくないため、深刻な問題です。 そのため、骨粗鬆症が疑われる場合には、早めに受診し、治療を受けて骨折を防ぐことが重要です。 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでも、「早めに治療を開始する」ことが勧められています。

骨粗鬆症は加齢に伴って起こることが多く、国内の患者数はおよそ1,280万人と推計されています。 骨粗鬆症は、一般に男女ともに50歳代から起こりやすくなります。 特に更年期以降の女性に多く、70歳代の女性では、約半数に骨粗鬆症があると考えられており、高齢になるにつれ、男性にも増えてきます。 骨粗鬆症は、多くの中高年の女性が程度の差はあれ直面する健康問題の一つです。 内蔵機能や血管・血流は正常、脳も元気なのに、骨粗鬆症にかかっているという中高年女性は大変多いようです。 統計的にも50代では3~4人に1人、60代では2人に1人、70代以上になると10人に7~8人が骨粗鬆症だといわれています。
骨粗鬆症は、閉経後の女性に多い病気ですが、日光を浴びる機会の少ない人、胃を切除した人、腎臓病の人などもなりやすく、 原因は未だ詳細に解明されてはいませんが、性ホルモンの分泌低下、 カルシウムビタミンDの不足などが主要因とされ、 運動不足喫煙飲酒なども要因になると考えられています。

現在の基準では、原則として骨密度が若年平均値の70%を下回ったときに骨粗鬆症と診断されますが、 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」では、骨密度が70%以上でも、主なリスク因子を抱える場合は薬物治療を始めるべきだとしました。 本人や家族の骨折歴や多量の飲酒、喫煙習慣がリスク因子となり、骨折歴などのない人に比べて骨折する危険度が1.2倍~2.4倍ほど高まるためです。

骨密度だけで判断すると、大勢の人のリスクが見逃される恐れがあります。 その根拠の1つがオランダで55歳以上の男女約8,000人を対象に実施した調査結果。 調査期間中に腕や足などを骨折した約900人について分析したところ、骨密度がほぼ「70%未満」と 骨粗鬆症に該当したのは、女性で4割余り、男性で2割ほどにとどまりました。 女性で4割、男性で6割ほどは、診断基準では病気とされない「骨量減少」状態の人でした。 骨粗鬆症の条件を十分に満たしていても、治療を受けている人は2割ほど。 初期だと自覚症状がほとんどないので、見過ごしてしまう人も多いようです。


■骨粗鬆症の症状

骨折が起こりやすくなる

骨粗鬆症の初期には、自覚症状がほとんどありません。しかし、気付かないうちに骨は徐々に弱くなっていきます。 背骨は、円柱状の「椎体」と複雑な形をした「椎弓」からなる骨が積み重なってできています。 しかし、骨粗鬆症が進み、骨の強度が低下すると、スカスカになった椎体が重みに耐えられなくなり、圧迫骨折が起こり、背骨(椎体)が潰れることがあります。 その結果、「背中が丸くなる、腰が曲がる、身長が縮む、腰や背中が痛む」などの症状が現れることがあります。 また、全身の骨が弱くなって、特に太腿の付け根や手首、肩などの骨が骨折しやすくなります。 通常なら骨折しないような軽い力が加わっただけでも、骨折することがあります。


●骨粗鬆症になると・・・

骨粗鬆症とはご存知のように、骨量が減少して骨がもろくなり、主に手首の骨や大腿骨の骨折を招きやすくなる状態を言います。 他にも腰痛、股関節痛、 膝痛、足首痛などにも見舞われ、歩行の不自由や転倒を引き起こすことも珍しくありません。 また、骨量の減少は、背骨の変形を来すこともあります。

骨粗鬆症の厄介なところは、自覚症状が少なく、痛みがないまま進行することです。 症状が進むと、腰が重く感じたり、痛みを覚えたりするようになります。 そして、体をひねる、物を持ち上げるといった日常のちょっとした動作で背骨の内側の組織が潰れ、 圧迫骨折を起こしやすくなります。 しかも、一度圧迫骨折を起こすと、ドミノ倒しのように連鎖的に何度も骨折を繰り返して 知らず知らずのうちに背骨が曲がって前傾姿勢になり、身長が低くなってしまいます。 身長が若いころに比べて3cm以上低くなったら、骨粗鬆症の疑いがあります。 また、こうなると体の重心が前にかかるため、転倒しやすくなります。 特に、腿の付け根の大腿骨や背骨が骨折すると、寝たきりになるので注意が必要です。 骨粗鬆症が恐いのは、そうした直接的な症状や障害にとどまらず、転倒、痛み、骨折などを経験すると、 出歩いたり、てきぱき家事をこなしたりするのが億劫になり、日常生活がしにくくなってしまいます。 すると、よけい骨粗鬆症を進行させる悪循環に陥り、体は老化する一方になるのです。


■骨粗鬆症の原因

年を取るにつれて、骨は次第に弱くなっていきます。 これは骨量(骨に含まれるカルシウムなどの量)が減ってしまうからです。 健康な人の骨の内部は、棒状のカルシウムの繊維が縦横に数多く連結し、強度を保っています。 骨粗鬆症になると、これらの繊維が細くなったり、切れたりして骨と骨の間の空間が広くなり、スカスカの状態になってしまいます。 そのため、骨粗鬆症になると、体に小さな衝撃が加わっただけで簡単に骨が潰れたり、折れたりしてしまうのです。 そして、骨量が減る原因は「骨代謝のバランスの崩れ」「体内の女性ホルモンの減少」です。


●骨吸収と骨形成

骨吸収と骨形成のバランスが崩れて骨量が減ってしまい、骨の強度が低下することが原因。

骨は、絶えず古い骨が破壊され、新しい骨が作られて、生まれ変わっています。 このような破壊と再生を「骨代謝」といいます。 骨も新陳代謝を繰り返すことで、強さとしなやかさを保っています。 骨代謝の中心的役割を担っているのが「破骨細胞」「骨芽細胞」です。 骨が古くなると、そこに破骨細胞が集まってきて、骨を溶かし破壊していきます。 これを「骨吸収」といいます。その後、骨芽細胞が壊れた部分に骨を作って修復し、新しい骨に再生させます。 これを「骨形成」といいます。 骨の破壊と再生がバランスよく行われていれば、骨は健康な状態を保てます。 しかし、加齢など何らかの原因でバランスが崩れ、骨の破壊に再生が追いつかなくなると、 骨量が減って骨がもろくなる骨粗鬆症が起こりやすくなります。 健全な骨の内部はスポンジ状の構造になっており、数多くの小さな骨が縦横に連なるように存在し、強度を保っています。 これらの小さな骨が細くなって、スポンジ状の構造が粗くなると、骨の強度が低下します。 これが骨粗鬆症です。 また、骨の構造は、主原料であるカルシウムなどを コラーゲンが繋ぎ合わせることによって保たれています。 コラーゲンの働きが低下すると、骨質が劣化します。さらに最近では、全身の代謝状態も骨の強度に関与すると考えられています。

▼骨代謝のバランスの崩れ
骨も細胞の新陳代謝によって、再生・維持されています。 古い細胞を壊して吸収するのが「破骨細胞」、新しい骨を作り出すのが「骨芽細胞」です。 この両者がバランスを取りながら、およそ3年で骨は再生・維持されています。 これを「骨代謝」といいます。 ところが加齢により、あるいは栄養の偏りや 関節リュウマチなどの病気があると、そのバランスが崩れてしまいます。 破骨細胞が増え、相対的に骨芽細胞が不活性になり、骨量が減ってしまい、骨の強度も低下します。 破骨細胞と骨芽細胞のアンバランスは、加齢のみならず妊娠・出産によっても起こります。

▼体内の女性ホルモンの減少
中高年女性が骨粗鬆症になりやすいのは、閉経によって「女性ホルモン(主にエストロゲン)」が激減するからです。 エストロゲンは骨からカルシウムが溶け出すのを防ぎ、骨形成を維持する働きがあるので、エストロゲンの激減は骨量・骨密度を低下させます。 加えて、カルシウム、ビタミンDの摂取不足や運動不足、日光浴不足などが骨粗鬆症を助長してしまいます。

●女性ホルモンの影響

女性ホルモンの1つ「エストロゲン」には、破骨細胞の働きを抑えるなど、骨代謝のバランスを調節する重要な役割があります。 女性の場合、20歳から40歳くらいまでは骨代謝のバランスがほぼ保たれています。 しかし、50歳前後の閉経の頃から、女性ホルモンの分泌低下に伴い、骨量が減少します。 一般に閉経前後約10年間は、骨量が年間2~3%ずつ減少するといわれています。 人によっては4%と、通常より早く減少することもあるので、注意が必要です。


●骨量不足の理由

最近では、骨量不足が若い世代にも広がっています。 年齢的には骨量が豊富なはずの20代や30代といった人たちに、骨量不足が目立っているのです。

その理由の一つには、「カルシウムの摂取不足」が挙げられます。 カルシウムが豊富な食品といえば、牛乳が有名でしょう。 しかし、小魚やヒジキ・コンブ・ワカメなどの海産物にも豊富に含まれています。 こうした海産物は、昔ながらの和食に頻繁に登場した食品でもありました。 しかし、現代では食事の欧米化が進み、これらの食品を食べる機会が減りました。 特に若い世代には、洋食を好む人が多くいます。 その結果、食事からのカルシウム摂取量が減り、骨量不足に陥る人が増えたのです。 極端な食事制限を行うダイエットなども、カルシウム摂取量を減らし、骨量不足を招く大きな要因といえるでしょう。

そして「運動不足」も骨量不足を招く重大原因です。 骨量を維持し、骨を強くするためには、運動をして骨に適度な負荷をかけることが必要です。 ところが、交通機関の発達した現代では、中高年だけでなく若い人も歩いたりする機会が減りました。 洋式トイレやベッドなどを使う生活習慣も運動量を減らす原因となります。 掃除や洗濯・布団の上げ下ろしなどの家事は、意外に運動量が大きく、骨量の維持や骨の強化に役立ちます。 しかし、家電の普及や洋風の生活に様変わりしたことで、昔に比べて若い人たちが運動不足になり、骨量不足が目立って増えていると考えられます。


■骨粗鬆症のタイプ

骨粗鬆症は、骨代謝のバランスの崩れ方により、2つのタイプに分けられます。

▼高回転型
骨形成は活発に行われていますが、骨吸収がそれを上回るために骨量が減ってしまいます。 主に、閉経後の女性に多く見られるタイプです。

▼低回転型
骨吸収も骨形成も低下していて、特に骨形成がより低下しているために骨量が減るタイプです。 新陳代謝が低下する高齢者に多く見られます。

どちらのタイプの骨粗鬆症に属するかは血液検査や尿検査で「骨代謝マーカー」を測定することによって調べることができます。


■女性と骨粗鬆症

女性ホルモンの1つ「エストロゲン」には、破骨細胞の働きを抑えるなど、骨代謝を正常に保つ働きがあります。 女性の場合、閉経して女性ホルモンの分泌が減少すると、骨代謝のバランスが崩れ、骨粗鬆症が起こりやすくなります。 65歳以上の女性の半数以上は骨粗鬆症の可能性があり、75歳以上になると、骨折しやすい状態まで骨粗鬆症が進行している人が少なくないと考えられています。 女性の場合、閉経後約10年間は、通常、骨密度が年間2~3%減少するといわれていますが、 人によっては4%以上と、通常より減少の速度が速いこともあり、その場合は特に注意が必要で、骨量測定を半年に1回程度行う必要があります。


■カルシウム不足が招く中高年の骨粗鬆症

カルシウム不足が招く中高年の骨粗鬆症について述べます。

●不足しがちなカルシウム

丈夫な骨や歯は、高齢期を健康に過ごすのに欠かせない条件。ところが、日本人には骨や歯の主成分であるカルシウムが不足している人が多いといわれています。 体内のカルシウムの99%は骨と歯に存在しています。 残り1%については血液や筋肉にあり、神経の情報伝達を助けたり、筋肉を動かすなど大変重要な働きを担っています。 だから、血液や筋肉中のカルシウム不足は、体にとって緊急事態。 もし不足してしまったら、血液中のカルシウム量を一定に保つために、骨からカルシウムが溶け出して不足分を補おうとします。 こうした状態が続くと、骨に蓄えられているカルシウムが減ってしまい、骨がスカスカになる骨粗鬆症のリスクに繋がってしまうのです。 カルシウムは、成人女性では650mgが1日推奨量とされています。 しかし、厚生労働省によると日本人全般、特に女性のカルシウム摂取量は推奨量より下回っています。 カルシウムはどの食品にも含まれているわけではなく、また腸管から吸収されにくい成分ですから、たくさん摂っているつもりでも不足しがち。 意識してカルシウムを摂ることが大切です。


●ビタミンDとマグネシウムがポイント

骨に含まれるカルシウムの量を「骨量」といいます。 骨量のピークは20歳頃で、その後徐々に減少していきます。 このころまでにしっかり骨量を増やしておくこと、つまり、カルシウム貯金が、将来の骨粗鬆症を防ぐことに繋がるのです。 年齢を重ねて、立ち上がるときに腰や背中が痛い、背中や腰が曲がった気がするなどの症状があったら、カルシウム貯金が不足していたのかもしれません。 特に女性は閉経後に骨量が急激に減少するので、カルシウムを摂取する毎日の習慣が大事です。 シラス、ヒジキ、ワカメ、牛乳などのカルシウムたっぷりの食品を摂ると同時に、カルシウムの吸収を高める ビタミンDや カルシウム量を調整するマグネシウムの摂取も重要です。 食事の管理がなかなか難しい方は、これらが配合されているカルシウム剤を摂るのも便利。 最近では服用する錠数も少ないうえ、食品であるサプリメントではなく効能・効果のある「OTC医薬品」もあります。


■高齢者と骨粗鬆症

高齢者には、骨粗鬆症の人が多く、骨が弱くなっています。 また、年をとると筋力や体のバランスを保つ能力が低下したり、視力が低下して、日常生活の何気ない場面で転倒しやすくなります。 弱くなった骨は、ちょっとした転倒でも簡単に骨折してしまうので、注意が必要です。 高齢者が骨折すると、それをきっかけに「QOL(生活の質)」が低下したり、生活の自立度が低下して、介護が必要になることが少なくありません。 そうなると、骨折した本人がつらい思いをするだけではなく、家族にもさまざまな負担がかかります。