リチウム

リチウムは、躁鬱病の治療薬として広く用いられています。 また、リチウムの欠乏は、異常行動・犯罪と関連性があることが指摘されています。


■「リチウム」とは?

1817年、セレンの発見者である有名なベルツエリウス及びその弟子が、アルフヴェドソンが鉱石から新しい元素を発見し、 ギリシア語の石(lithos)に因んで「リチウム」と命名しました。 リチウムは周期表でアルカリ元素に属し、カリウム、ナトリウムと同族ですが、地球上ではナトリウムの500分の1以下しか存在しません。 1978年、パットらは、低リチウム飼料を3世代にわたり投与したラットで、 仔を産まない雌が多くなることからリチウムが繁殖に必要なミネラルであることを示唆しました。 1992年、ピケットらは、リチウム欠乏ラットの繁殖障害で高ナトリウム・リチウム欠乏ラットの方が、 低ナトリウム・リチウム欠乏のラットより分娩胎仔の体重が低いことを見出し、ナトリウムとリチウムが拮抗することを証明しました。 これらの研究は、リチウムが必須元素であることを示唆しています。

1949年、ケイドは、リチウムが躁病に対して有効であることを発見し、躁鬱病の治療薬として広く用いられるようになりました。 1970年には、ドウソンらが米国テキサス州で飲料水中のリチウム濃度が精神病入院率と逆相関することを報告しています。 1990年になると、シュラウザーらは同じ地域で1978~1987年のデータを解析し、 飲料水中のリチウム濃度の低い地域は、高い地域に比較して犯罪行為が多発することを見出しました。 1989年、小野と和田は低リチウム食で飼育したマウスが異常行動を示し、リチウムを与えると解消することを見出しました。 さらに小野らは、動物実験結果をヒトに外挿して、異常行動が起こらない日本人の必要量は約80μg/日と推定し、 一方、マーケットバスケット法による平均摂取量は約60μg/日と概算されることから、日本人はリチウム摂取量は低いレベルにあるとしています。 近年、わが国で犯罪行為が増加している事実に対して社会学的な対応のみを行っていますが、 このような研究成績を見ると自然科学的な面からも、こうした社会風潮を考える必要があるかもしれません。