腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤は、腹部の大動脈が局部的に拡大した状態をいいます。


■症状と特徴

動脈に瘤ができ、やがて大きくなる動脈瘤が、腹部の大動脈にできた状態です。 多くの場合、自覚症状がないので、健康診断で偶然発見されることが少なくありません。 また、自分で腹部を触ってみて気付いたり、痛みを感じて診察に訪れたりすることもあります。 瘤の直径が大きくなると、体の内部に圧力がかかって腰痛や腹痛が起こることもあります。 瘤が破裂すると、突然の腹痛や腰痛、背中痛とともに、出血性ショックを伴います。 腹部大動脈瘤による死因の半数が、瘤の破裂によるものです。 4cm以下の瘤が破裂する危険性は2%以下ですが、5cm以上の瘤では2年以内に破裂する危険性が22%になります。 破裂以外の死因としては、動脈硬化を基盤とした 虚血性心疾患、脳血管障害、腎機能障害、胸部大動脈瘤など、 他の臓器障害によるものです。 超音波でも発見できますが、肥満している場合や腸にガスが多く溜まっている場合には、はっきりわからないこともあります。 腹部造影CTを使えば、腹部大動脈瘤の診断は容易です。 腹部大動脈瘤は、大動脈瘤全体の約3分の2を占め、男性に多い病気です。発症頻度は、日本人の65歳以上の男性では2~3%とされています。 ほとんどは、腎動脈分岐部より下流にできます。 動脈硬化によって脆くなった動脈に瘤ができると、加速度的に大きくなります。


■治療

手術による外科的療法と、降圧薬を使った内科的療法があります。 手術の場合は、動脈瘤を切開して、人工血管に置き換えます。 破裂していない状態での術後30日までの死亡率は数%ですが、破裂時の緊急手術では40~50%となりますので、 自覚症状がなくても直径5cm以上の瘤は手術するべきだとされています。 また最近は、合併症がなく手術によるリスクが低い場合は、直径4cmでも手術をしたほうがよいとされています。 また、瘤の拡大速度も判断基準の一つです。6ヵ月間に5cm以上拡大する場合は、手術するべきだと考えられています。 手術を行った場合のその後の経過は、比較的良好で、5年生存率は70%前後に向上しています。 最近は、カテーテルを使ってバネ付きの人工血管に置換するステントグラフト治療も行われ、 良好な成績を残していますが、長期(5年以上)の成績はよくありません。 瘤の直径が小さい場合や、合併症で手術ができない場合は、降圧薬を使って血圧を下げる治療を行います。