脳卒中

脳卒中(脳血管障害)』は、突然脳の血管に障害が起こる病気の総称です。 脳には4つの脳動脈があり、脳動脈は頭蓋内で細かく枝分かれして脳の隅々に行き渡り、脳細胞に酸素と栄養分を供給しています。 この動脈の一部が詰まったり、破れたりして、血液が運ばれなくなると、半身が痺れたり、手足が麻痺したり、言葉がしゃべれなくなったり、 呼吸が乱れたり、いろいろな症状が現れてきます。これを脳卒中といいます。 脳卒中は、1回の発作で亡くなったり、重い後遺症が残って寝たきりになることもある、非常に危険な病気です。 脳卒中は、脳の血管が詰まる脳梗塞 脳の中で脳の血管が破れる脳出血 脳動脈瘤が破裂して出血するくも膜下出血に分かれますが、 いずれも突然発症するのが特徴です。 このうち一番多いのが脳梗塞で約7割を占め、次いで多いのが脳出血で約2割、くも膜下出血は約1割です。 特に高血圧症糖尿病脂質異常症の人 は動脈硬化が進み、 脳卒中を起こしやすいので警戒が必要です。 心房細動心臓弁膜症などの心疾患がある場合も、 心原性脳塞栓症 を起こしやすいので注意しましょう。


■「脳卒中」とは?

脳の血管が詰まったり破れたりして、麻痺などが起こる

『脳卒中』は、「脳血管障害」とも呼ばれ、脳の血管が詰まって起こる「脳梗塞」と、 脳の血管が破れて起こる「脳出血」「くも膜下出血」などに分けられ、 さらに、脳梗塞は「ラクナ梗塞」「脳塞栓」「脳血栓」の3つに分類されます。 いずれも突然発症するのが特徴です。

脳の血管が詰まったり破れたりすると、その先に血液が供給されなくなるために、酸素や栄養が不足して脳細胞が壊死してしまいます。 また、血管が破れた場合には、血液の塊やむくみで脳が圧迫されることも障害を起こす原因になります。 脳卒中の発作後に後遺症が残らない場合もありますが、何らかの後遺症が残ることも多く、 寝たきりなどの「要介護5」となる原因としては、脳卒中が半数近くを占めています。

厚生労働省発表の「平成26年 患者調査の概況」によると、脳血管疾患の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は117万9,000人で、 3年前の調査よりも約6万人減少しました。男女別に見ると、男性59万2,000人、女性58万7,000人という結果となりました。 また、推計患者数(この調査を行った日に全国の医療機関で治療を受けたと推測される患者数)によると、 脳血管疾患の入院患者数は15万9,400人、外来が9万4,000人でした。


■脳卒中のさまざまな症状

脳は、全身のさまざまな機能をコントロールする”司令塔”の役割を果たしています。 脳卒中が起きると、脳の障害を受けた部位に応じて、起こる障害の種類や程度はさまざまです。 運動障害、感覚障害、視覚・視野障害などは、多くの場合、体の左右どちらかの側だけに起こるのが、脳卒中の特徴です。 主な症状には、次のようなものがあります。

▼運動障害
体の片側に、「動かせない」「力が入らない」などの麻痺(片麻痺)が現れます。 脳の運動に関わる部位が障害されて起こるもので、右脳が障害されると左半身に、 左脳が障害されると右半身に麻痺が起こるというように、通常は障害を受けた脳とは反対側の半身に症状が現れます。

▼嚥下障害
食べ物や飲み物が飲み込みにくいという、飲み込みに関する唇や舌、喉などの筋肉が麻痺して起こる症状です。

▼意識障害
ボーッとしたり、意識が遠のいたりします。

▼感覚障害
体の片側に痺れが生じたり、感覚が鈍くなったりします。

▼視覚・視野障害
視野の半分が欠けたり、片方の目が見えなくなります。物が二重に見えることもあります。

▼言語障害
発声に関する唇や舌、喉などの筋肉が麻痺して、ろれつが回らなくなったり、言葉がもつれたりします。

▼頭痛・嘔吐・めまい
特にくも膜下出血では、突然激しい頭痛が起こります。

▼高次機能障害
言葉や物事を認識する能力が低下する障害です。 言葉が出てこなかったり理解できなかったりする「失語症」、 ハサミを使えないなど、日常的な動作ができなくなる「失行」、 見たり聞いたりしたものを認識できなくなる「失認」などがあります。

現れる症状の種類や程度によっては、脳卒中と気付きにくいこともあります。 これらは日常生活に密接な関わりを持つ機能であるため、障害が残ると、日常生活動作は大きく制限されてしまいます。


●前触れが起こることがある

さまざまな症状が現れても、数分から数時間程度で消えてしまうこともあります。 これは、脳梗塞の本格的な発作の前触れとして起こるもので、「一過性虚血発作(TIA)」と呼ばれます。 一過性虚血発作の多くは、頚動脈などにできた血栓が剥がれて脳に流れ、血管を詰まらせるために起こります。 しかし、小さな血栓ならば、血栓を溶かそうとする体の働きで、自然に溶けてしまうことがあります。 症状を起こしていた血栓が溶けると血流が再開し、それとともに症状が消えてしまうのです。 ただし、症状が消えても、治療を受けずに放置すれば、いずれ本格的な脳梗塞を起こす可能性が高いといわれています。 脳卒中の前触れがあったら、 なるべく早く神経内科や脳神経外科などの専門医を受診することが、本格的な発作の予防に繋がります。


■脳梗塞

血栓が血管に詰まることで、酸素がその先の脳細胞へ送られず、壊死が起こる病気が「脳梗塞」で、 日本では、近年増加の一途をたどっており、脳卒中全体の約3/4を占めています。 血管の詰まり方により、次の3つに大別されます。

ラクナ梗塞
脳の穿通枝(細い血管)の血管壁が、加齢に伴い、血流の圧力によって徐々に厚くなり、血管の内腔が狭くなって詰まるため起こります。 睡眠中に起こることが多く、高血圧などが関係しているとされています。

▼脳血栓(アテローム血栓性脳梗塞)
脳の太い動脈の動脈硬化巣で血管壁の内側に コレステロールなどが溜まり、 粥腫(アテローム)という塊ができて血管が狭くなったところで、粥腫を覆う膜に傷がつくと、 血小板などが集まってきて血栓をつくり、粥腫で狭くなっていた血管の内部(内腔)を塞いで詰まらせます。 また、頚動脈などにできた血栓が脳の血管に流れ込んで詰まることもあります。 睡眠中に起こることが多く、 糖尿病高脂血症が関係しているとされ、 発症当初は症状が軽く、徐々に重くなる傾向があります。 60~70歳代の男性に多く見られます。

脳塞栓(心原性塞栓症)
不整脈の一種である「心房細動」などによって、 心臓の中の血流が滞って血栓ができ、この血栓が血流に乗って脳まで運ばれ、脳の血管を詰まらせます。 頚動脈などにできた血栓が運ばれてくることもあります。 日中に起こることが多いようです。

脳の血管が詰まると、その先に血液が流れなくなります。 そのため、詰まった個所より先の部位では、酸素と栄養が不足して、脳細胞が障害されてしまいます。


■脳出血

脳の内部の血管が破れて、出血する病気が「脳出血」です。 脳出血の8割を占めているのが、高血圧によるもので、脳の比較的細い血管が、高血圧によって障害され、破れやすくなります。 脳出血が起こると、出血が脳細胞を圧迫して、障害を引き起こします。 さらに出血した血液が固まってできる「血腫」と、この血腫の周辺に生じるむくみ(脳浮腫)によって脳細胞が圧迫され、ダメージを受けます。 男性は50~60歳代、女性は閉経前後から発症が多くなります。 数十年前までは非常に多く見られましたが、近年は減っています。

脳出血の治療には、主に降圧薬で血圧を下げたり、抗浮腫薬で脳のむくみを取る薬物療法や脳の中に溜まった血の塊(血腫)を取り除く外科的治療があります。


■くも膜下出血

「くも膜下出血」は、 脳に入っていく手前の、脳の表面を走る血管の分岐部などにできた「動脈瘤(血管のこぶ)」が突然破裂する病気です。 脳を包んでいる「軟膜」「くも膜」の間(くも膜下腔)に出血が広がることで脳細胞が障害されます。 それまでに経験したことのないような、激しい頭痛が起こるのが特徴です。 動脈瘤は、もともと血管壁に、圧力に対して弱い部分がある人に生じやすい傾向があるなど、発症には遺伝的な素因も関係しています。

くも膜下出血の場合は、開頭して脳の動脈瘤を治療する方法(クリッピング)や、脚の付け根の動脈からカテーテルを挿入し、 脳の動脈瘤内にコイルを入れる方法(血管内治療)で、動脈瘤からの再出血を防ぐ治療が行われます。


■脳卒中の対処・治療・リハビリ・再発予防

救急車を呼び、静かな場所に寝かせる

脳卒中の発作が起きると、時間の経過とともに、脳の状態が悪化します。 治療が遅れると、命に関わったり、後遺症が重くなりますから、できるだけ早く治療を受けることが重要です。 例えば、脳梗塞の場合、血栓を強力に溶かす新しい薬が使われるようになり、発症3時間以内にこの薬による治療を行えれば、 後遺症の程度を大幅に軽減することが可能となっています。

【関連項目】:『脳卒中の前触れ』 / 『脳卒中に対する備えと起こったとき』 / 『脳卒中の治療』

●再発予防のポイント

汗をかく夏には、血液が濃くならないように、こまめに水分を補給することが重要です。 他にも、次のようなことを心掛けて、脳卒中を予防しましょう。

▼持病のコントロール
高血圧高脂血症糖尿病などの生活習慣病や心臓疾患などは、脳卒中を起こす危険性を高めます。 これらの持病がある場合は、きちんと治療を受け、病気をコントロールするようにします。

▼前触れを見逃さない
一過性虚血発作で症状がすぐに消えてしまった場合でも、必ず医療機関を受診し、検査を受けてください。

▼生活習慣に注意
生活習慣病や心臓疾患のほか、 「大量飲酒」「喫煙」も、血圧を上げたり、 動脈硬化を促進して、脳卒中発症の危険性を高めることがわかっています。 持病のコントロール以外にも、 「適度の運動を心がける」 「ストレスを貯めない」など、生活習慣に気を付け、 今ある脳卒中の危険因子の数をなるべく減らすことが大切です。

【関連項目】:『脳卒中のリハビリテーション』


■その他

▼若い人にも脳卒中は起こるのか?
脳卒中は高齢者に多いのですが、1割は50歳代以下に起こっています。 最近では、若い世代に起こる脳卒中の約2割に「動脈解離」が関係していることがわかりました。 動脈解離とは、血管壁の中に血液が入り込んで血管壁が裂けた状態で、後頭部を通る「椎骨動脈」に多く起こります。 解離した血管が破れた場合はくも膜下出血を起こします。 また、血管壁の中に入り込んだ血液が血腫をつくると、血腫が血管を圧迫して詰まり、脳梗塞を起こします。 血管壁が裂けるとき、首から後頭部にかけて、激しい痛みが生じます。 その後数日以内に本格的な脳卒中が起こる場合が多いので、早急に受診しましょう。