脳梗塞の対処法①~直前で食い止める~

脳梗塞』が起こる前に、「TIA」と呼ばれる前兆が現れることがあります。 TIAの段階で治療を受ければ、脳梗塞の発症を防ぐことが可能です。


■脳梗塞の前兆「TIA」

脳梗塞と同じような症状が一時的に現れる

脳梗塞が起こると、脳の血管に血栓が詰まるなどして血流が途絶えて、脳が壊死します。 そのため、脳梗塞を発症すると命に関わったり、病後に後遺症を残すことがあるのですが、発症の前に、 一時的に脳梗塞と同じような症状が現れる場合があります。 これを「一過性脳虚血発作」といいますが、通常は英語名の頭文字を取って「TIA」と呼んでいます。 TIAは通常、数分から数十分ほどで自然に治まります。症状が1時間以上続く場合がありますが、 長くても24時間以内にはすっかり消えてしまうのが大きな特徴です。 TIAも脳梗塞と同様に脳の血管に血栓が詰まって起こります。脳梗塞の場合は、一旦血栓が詰まると自然に元に戻ることはありませんが、 TIAは脳梗塞と異なり、短時間のうちに血栓が溶けて流れ、血流が再開します。そのため、一時的な症状だけで済んでしまいます。 TIAでよく見られる症状には、「体の片側の麻痺」「ろれつが回らないなどの言語の障害」などがあり、 脳梗塞の症状とほとんど変わりません。 また、脳梗塞の場合は、視野の半分が欠けることがありますが、TIAでは、片方の目だけが急に全く見えなくなることがよくあります。 目の血管は首の左右にある「頸動脈」から枝分かれしており、頸動脈にできた血栓が目の血管に流れて詰まると、 一時的に片方の目が見えにくくなるのです。TIAの重要な症状です。

●症状が消えてもすぐに治療を始める

症状が消えたからといって、TIAを放置するのは非常に危険です。 脳梗塞と同様の症状が現れるほど動脈硬化が進んでいるわけですから、TIAが起きた直後ほど脳梗塞を発症する危険性が高くなります。 TIAが起こった場合は、救急車を呼ぶなどして、急いで専門の医療機関を受診して検査と治療を受けることが重要です。 TIAを起こした直後に、速やかな再発予防策を講じることによって、脳梗塞を発症する患者さんを約80%減らすことができると いわれています。


■TIAが起こったら

MRIやエコーによる検査を行い、脳や頸動脈を調べる

医療機関では、脳のMRIや頸動脈のエコーによる検査が行われます。 TIAの患者さんにMRI検査を行うと、30~40%に小さな脳梗塞が見つかります。 このような患者さんは、本格的な脳梗塞を起こす危険性が高いので、入院して緊急治療を受けます。 頸動脈のエコー検査は、超音波を使った簡便なもので、頸動脈の内部を画像で表すことができます。 頸動脈の動脈硬化、血管の壁にコレステロールなどがたまってできる「プラーク」の状態、頸動脈の狭窄の程度などを 確認できます。

●頸動脈の動脈硬化がリスクとなる

頸動脈の動脈硬化が進んでプラークが形成されると、プラークの表面が破れて血栓ができやすくなります。 頸動脈は脳の血管につながっているので、頸動脈に血栓が剥がれると、血流によって脳の血管に運ばれて詰まります。 それが一時的なものであればTIAですが、詰まったままだと脳梗塞になります。 頸動脈の動脈硬化が進むにつれて、頸動脈の内部は狭くなります。 頸動脈の狭窄が強いほど脳梗塞を起こす危険性が高いので、頸動脈の内部が狭いことがわかった場合は、適切な治療が必要です。


■脳梗塞を防ぐために

薬物療法や手術などで、頸動脈の狭窄を治療する

TIAから脳梗塞が起こるのを防ぐためには、次のような治療が行われます。1

▼薬物療法
基本的な治療で、血液をサラサラにする「抗血小板薬」や、コレステロール値を下げて動脈硬化の進行を抑えたり、 プラークを安定させる「スタチン」を服用します。それでもTIAが治まらない、脳梗塞を防ぐのが難しいといった場合は、 「手術」や「ステント療法」が行われます。

▼手術
頸動脈を切り開いて、狭窄の最大原因であるプラークを取り除いて頸動脈の内部を拡張する、「頸動脈内剥離術」 が行われます。最も有効性の高い根本的な治療法です。

▼ステント療法
カテーテルを、太ももの付け根の血管から頸動脈の狭くなった部分に送り込み、「ステント」という筒状の金属を 留置して広げます。患者さんへの負担が少ないので、最近は盛んに行われるようになってきました。

●他の病気や生活習慣の改善を行う

脳梗塞を食い止めるためには、原因となる病気や生活習慣への対策も必要です。 動脈硬化の大きな危険因子である 「高血圧」や、 「糖尿病」 「脂質異常症」 「メタボリックシンドローム」 「慢性腎臓病」などは厳重に管理します。 心房細動がある場合は、その管理も行います。管理のためには、食事や運動などの生活習慣の改善に取り組みますが、 必要に応じて薬も用います。「喫煙」や「大量飲酒」を避けることも大切です。