首の動脈硬化(頚動脈狭窄症)によって起こる脳梗塞

首の血管は、枝分かれが多いため血流が乱れて詰まりやすく、血栓ができてそれが脳に流れると脳梗塞が起こります。 首の血管の詰まりは「脈拍にあわせて起こる耳鳴り」「一時的な視力低下」などが危険の前触れになります。


■首の動脈硬化(頚動脈狭窄症)

首の動脈からは血栓がはがれやすい

今、日本人の死因の第一位は癌ですが、第三位の「脳卒中」も危険な大病として見逃せません。 脳卒中の中で最も多いのが「脳梗塞」。脳卒中で亡くなった人の約7割は脳梗塞が原因です。 脳梗塞とは、脳血管が詰まって、その先に血液が行かなくなり、脳細胞が死滅する病気。 突然死を招くだけでなく、一命を取り留めても、半身麻痺や言語障害などの後遺症が残ることも少なくありません。 年をとるにつれて増えてくるボケ(認知症)も、その大半は脳梗塞が原因と考えられています。

脳梗塞のほとんどは、脳の動脈硬化によって起こります。ところが、最近では、脳以外の部位の動脈硬化によって、 脳梗塞が多発するようになっています。とりわけ、その重大な原因と見られているのが 首の動脈(頚動脈)の動脈硬化です。首には、何本かの太い動脈が走っていて、そこから細い動脈が無数に 枝分かれしています。しかも、首の動脈は折れ曲がったり、大きく湾曲したりしているのが特徴。 例えば、首の下部にある総頚動脈は、顎の骨の出っ張りの辺りで外頚動脈と内頚動脈に別れます。 心臓から送り出された血液は、内頚動脈を通って脳に、外頚動脈を通って顔面に送られます。 内頚動脈からは、途中で目の動脈が分かれ、さらに、脳内で前大動脈と中大動脈に分かれます。 こうした複雑な構造が、動脈硬化を招きやすいのだといえるでしょう。

川が蛇行したり、二股になったりしているところでは、水の流れが乱れて氾濫が起こりやすくなります。 幅の狭い曲がりくねった道路でも、渋滞が頻繁に起こりやすくなります。 同じように首の動脈、特にその分岐点では、血液の乱流(渦を巻いたりして、血管壁の一部に負担がかかる) がよく起こります。すると、血管壁が傷つき、そこにコレステロールや血小板が付着し、血栓ができやすくなります。 そして、血管がさらに詰まっていってしまうのです。

さらに悪いことには、首の動脈にできた血栓ははがれて脳に流れていき、脳血管を詰まらせてしまうことが少なくありません。 こうして脳梗塞が引き起こされるのです。血栓は、全身の血管内にできますが、多くの場合は自然に溶けるため、 問題にはなりません。しかし、血栓が溶けるには一定の時間がかかります。首の動脈は、乱流がよく起こるため、 血栓が溶けきらないうちにはがれやすいのです。しかも首の動脈は脳に直結しているので、首にできた血栓は、 脳梗塞を招く危険が極めて多いといえるでしょう。


■首の動脈硬化と脳梗塞

若い人に急増する首の動脈硬化

首の動脈硬化は、脳にも悪影響を与えるようになります。脳は大量の酸素や栄養を使います。 しかも、脳細胞は酸素や栄養を蓄えておくことができないので、いつも豊富な酸素や栄養を血液から取り入れています。 同時に、脳は二酸化炭素や老廃物も大量に排出するので、それらも脳から素早く運び出さなければなりません。 そこで、脳には1分間に1500ミリリットルもの血液が巡っているのです。 こうした大量の血液を脳内でスムーズに循環させるため、心臓と脳の間の血流を調整しているのは、自律神経。 自律神経は、首の動脈を収縮・拡張させることによって、脳内の血圧をほぼ一定に保っています。 ところが、首の動脈硬化が進めば、この働きはうまくいかなくなって、脳内の血流も乱れます。 さらに、脳細胞に十分な酸素や栄養が行き渡りにくくなり、脳内の新陳代謝が低下してしまいます。

脳梗塞は、何の前触れもなく、突然起こる急性の病気ではありません。 毎日の生活の中で少しずつ進んでいく生活習慣病の一つです。 わが国では、首の動脈硬化による脳梗塞が、特に若い人の間で急増しています。 なぜなら、こうしたタイプの脳梗塞は、食生活の欧米化と運動不足が二大原因だからです。 かつての日本人の食事は、魚や野菜を多く使った和食が中心でした。 しかし、洋食の普及に伴って、高カロリー、高脂肪の動物性食品を摂る人が増え、特に若い世代では、 その傾向が強まっています。動物性食品を摂り過ぎれば、動脈硬化を招くコレステロールが体内で余ってしまいます。 一方、交通機関や家電製品の発達などによって私たちは体を動かす機会が大幅に減りました。 その結果、消費カロリーが減って、血液中に脂肪や糖がだぶつき、動脈硬化を進めるのです。


■首の動脈硬化の症状

肩や首のこりや顔面のしびれも起こる

首の動脈硬化が脳梗塞の原因になると上に述べましたが、40歳以上で首の動脈硬化が見つかった人は、 その半数が1年以内に脳梗塞を起こしたという報告もあります。首の動脈は、断面積の80%以上が詰まっても、 自覚症状が現れない場合もあるといわれています。しかし、注意深く観察していれば、首の動脈硬化を見つけることは 不可能ではありません。ここでは、首の動脈硬化があるかないかを、自分で見分ける方法について紹介しましょう。

▼頭痛・めまい
首の動脈硬化の見逃せない症状としては、頭痛・めまいがあげられるでしょう。 上にも述べたように、動脈硬化によって首の動脈が柔軟さを失えば、脳内の血圧がうまく調節できなくなり、 脳の血流が乱れます。その結果、脳内の血圧が高くなれば頭痛が起こり、血圧が下がればめまいが起こるのです。 吐き気を伴う場合もあります。それに、首のまわりや顔面の血流が悪化するので、肩や首のしつこいコリ、 顔面の痺れなどに悩まされることも少なくありません。

▼耳鳴り
首の動脈硬化が進めば、耳鳴りがすることもあります。首の動脈は枝分かれの多い複雑な構造をしており、 血管内では血液が血管壁にぶつかったり、渦を巻いたりして振動が起こります。 血管が詰まってくると、血流の乱れが激しくなって、それが耳の鼓膜に伝わって、雑音のように聞こえるのです。 首の動脈硬化による耳鳴りは、血流によって発生するので、脈拍に応じた一定の間隔で、ザーッザーッと波のように 繰り返されるのが特徴。ただし、耳から離れた部位で動脈硬化が起こった場合、耳鳴りはしません。

▼一過性脳虚血発作
首の動脈硬化がさらに進めば、ついには血管が詰まってしまいます。 首の動脈硬化が悪化すれば、片方の手足が痺れたり、歩く時によろめいたり、 舌がもつれたりすることもあります。こうした症状を専門的には「一過性脳虚血発作」と呼びます。 この発作が起こった場合、脳梗塞を起こす確立はきわめて高いといえるでしょう。

▼その他
そのほか、片目の視力が一時的に落ちたり、視界にゴミのような黒い点が現れたりする場合もあります。 首の動脈は目の動脈にも血液を供給しているため、首の血流が滞ることによって、目の働きが衰えることもあるのです。

上にあげた自覚症状は、首の動脈硬化だけが原因とは限りません。 誰にでも起こる老化現象ということもあるでしょう。ただし、首の動脈硬化は、脳梗塞を招く危険が大きいので、 特に中高年で心当たりのある人は、念のために、医療機関で詳しい検査を受けるとよいでしょう。 首の動脈硬化かどうかは検査をすればすぐにわかります。