加齢性難聴対策①

耳の中の内耳にある「蝸牛」には、細かい毛をもつ「有毛細胞」があります。 音は、振動として有毛細胞を刺激し、電気信号に変えられて脳に伝わり、音として認識されます。 ところが、加齢に伴って、有毛細胞の毛は折れたり抜けたりして壊れ、次第に音を聞き取りにくくなります。 加齢性難聴は、片側だけに起こることはまれで、両耳が同じように聞こえにくくなるケースがほとんどです。 また、一般に蝸牛の根元にある、高い音(振動回数が多い音)を聞き取る細胞から壊れてくるので、 高い音から聞こえにくくなるという特徴があります。 なお、1500万人もの高齢者が悩む加齢性難聴は老化よりも耳を傷める生活習慣こそ重大原因とわかりました。


■加齢性難聴のサイン

名前を呼ばれても気付かないことが増えた、家族からテレビの音がうるさいと言われる、 会話で話が聞き取れなくて愛想笑いでやり過ごす・・・・・高齢になるほど、こうした聞こえの悪さを感じる人が多くなります。 難聴は、耳から入った音が鼓膜や神経などを介して脳に伝わり、音として認識される一連の流れのどこかに異常が生じることで 起こります。私たちが音を認識する流れを簡単に説明しておきましょう。

空気の振動である音が耳に入ると、外耳道という2cmほどの細長い空間を通って、外耳と中耳を隔てる鼓膜を振動させます。 鼓膜からは中耳に向かってツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨という三つの耳小骨が連なっており、鼓膜の振動がこの三つの耳小骨に 順に伝わります。その際、耳に入ってきた振動は10倍ほどに増幅されます。 増幅された音は内耳にある蝸牛という器官に伝わり、内部を満たすリンパ液を介して、音を感知して脳に伝える有毛細胞に到達します。 そして、有毛細胞から聴神経を通じて脳に届き、音と認識されるわけです。

もちろん、ひとくちに難聴といっても程度の違いはあります。音の大きさや強さは「デシベル」という単位で表され、 25デシベル以下は聞こえなくても26~40デシベルの音は聞こえるという人は軽度難聴、同様に41~55デシベルの音が聞こえれば 軽中度難聴、56~70デシベルなら中高度難聴、71~90デシベルなら高度難聴、そして、91デシベル以上出ないと聞こえない場合は 重度難聴と判断されます。デシベルの度合いを身近な音で表現すれば、ヒソヒソ話の声が20~30デシベル。 近くの人のヒソヒソ話が聞こえにくくなったら難聴を疑うべきです。難聴は放置していると、鬱や認知症を引き起こすこともあります。 早期に発見し、できるだけ早く対策を打つ必要があります。


●75歳超でも10代の聴力を持つ人がいる

国立長寿医療研究センターが行った研究では、65歳以上の高齢者で難聴を抱えている人は、推計で1500万人に達すると報告されています。 また、難聴者の年代別の割合は50代で6%、60代で21%、70代では53%、そして80代では79%にも達しているとわかったのです。 年齢を重ねるにつれて難聴に陥る人が増えるこうした状況を見ると、「難聴=老化」というふうに思う人がほとんどでしょう。 経験的に年と共に聞こえが悪くなったと感じる人は大勢いるうえ、実際、人の耳の機能は一般に20歳頃をピークに 次第に衰えていくこともわかっています。また、高齢者の難聴が、専門的には「老人性難聴」と呼ばれるのも、 難聴は老化現象であるという捉え方を踏まえているためです。
しかし、一方で、高齢でも難聴と無縁の人がいるのも事実です。75歳以上の高齢者の4%は、10代のころとほぼ変わらない聴力を 維持しているという報告もあります。この数値は統計学的にも偶然で片づけられるものではありません。 これはどういうことなのでしょうか。


●難聴対策のカギは生活習慣の改善

この問題に驚くべき回答を打ち出したのは、国立長寿医療センターが2007年10月に発表した疫学研究の報告です。 その報告では、高齢者の難聴と老化にはあまり関係が認められないことが述べられるとともに、より重要な原因として、 生活習慣が発生に大きく影響する「動脈硬化」「騒音」の2つが示されたのです。 つまり、年とともに増える難聴は老化によるものではなく、耳を傷めやすい生活習慣が引き起こすものだった、というわけです。 難聴が老化現象によるものとは言えないという事実は、これまで行われてきた研究や調査、数々の診療から、 老人性難聴を、老人になると起こる病気という印象を与えるこの病名ではなく、悪い習慣によって 身体的な加齢が重なった結果起こるという意味で、「加齢性難聴」と呼ぶべきかもしれません。

ところで、これは見方を変えれば難聴に悩む人にとって朗報ともいえます。 高齢者の難聴の原因が老化ではなく、耳を傷める生活習慣にあるのなら、生活習慣を改めることで難聴の進行を食い止めたり、 改善に導いたりできる可能性があるからです。次ページからは耳をいたわる「快調生活」の勧めについて紹介していきましょう。