ES細胞(胚性幹細胞)

ES細胞とは、受精し5~6日後の胚の中にある細胞から 未分化のままの幹細胞を受精卵から人為的に取り出して、特殊な方法で培養したものです。 体のあらゆる細胞に分化する機能があり、「全能性幹細胞」だと考えられています。 ES細胞は一般に「胚性幹細胞」とも呼ばれて、近い将来の医療に役立つ細胞として、脚光を浴びています。 研究が活発に行われている国もありますが、人への適応や研究そのものについても、倫理的な問題が議論されています。

■ES細胞(胚性幹細胞)とは?

受精卵が細胞分裂を繰り返して、100個程度の球体状になると、内側に「内部細胞塊」と呼ばれる細胞群ができ、 内部細胞塊はやがて身体のさまざまな組織へと分化を始め、脳や心臓、骨、筋肉などすべての臓器ができていきます。 この「内部細胞塊」を人為的に取り出して、特殊な方法で培養すると、未分化のままの細胞(幹細胞)が無制限に増えていきます。 このような培養によって得られた細胞のことを『ES細胞』といいます。 本来、刻々と変化を続ける胚細胞が外部に取り出された時点で、あたかも分化が停止したかのような状態になった細胞群です。


●「ES細胞(胚性幹細胞)」の再生医療への応用の問題点

ES細胞は、未分化の細胞ですから、ある条件さえ与えれば、脳や心臓、骨などを人為的に作り出すことが可能であると考えられています。 こうした考えから「ES細胞」による「再生医療」の可能性が注目されるようになっています。 現在、世界各国で動物による研究が行われており、そうした試験に基づいて、 将来実現可能であると考えられている医療分野には、 パーキンソン病、脊髄損傷、 心筋梗塞糖尿病肝代謝障害動脈硬化症、筋ジストロフィー症、 白血病、等々があります。

しかし、実際に「ES細胞」を用いた再生医療を行うには、「ヒトのES細胞」を得るために まず初めに「ヒトの受精卵」を確保しなければならないことから、 生命倫理上の課題や宗教上の問題が横たわっており、「ES細胞」の近い将来での医療応用はかなりの困難が予想されます。


■再生医療

病気やけがで傷ついた組織、損なわれた機能を修復する治療を再生医療といいます。 「再生医療」で使用されるのは、「幹細胞」と呼ばれる細胞で、これはさまざまなタイプの細胞や臓器になる能力を備えています。 なかでも、骨髄から得られる「骨髄幹細胞」が現在よく使われます。 また、ヒトの受精卵からできる「ES細胞」の研究も盛んに行われています。 しかし、「ES細胞」は、受精卵を用いる点やクローン技術との関わりがあるため、実用化にあたっては生命倫理上の課題を抱えているのが現状です。

人間の体は、例えば皮膚や髪の毛を見るとわかるように、日々古いものがなくなり、新しいものに入れ替わっています。 これは体の中に、新しい細胞を作る基になるものがある、ということで、そうした機能を持っているのが「幹細胞」です。 そして幹細胞の中でも、最も早い段階のものがあります。人間の始まりは受精卵(胚)の状態で、これが分化していく過程で、 さまざまな機能を持った部分に分かれ、複雑な人体が構成されていきます。 つまり、胚の中に存在する原初の幹細胞は、あらゆる人体の部分になっていく可能性(多様性)を備えているのです。

【幹細胞】

骨髄の中には、血液をつくる「血液幹細胞」や、そのほかの細胞をつくる「骨髄幹細胞」があることがわかってきました。 現在、「骨髄幹細胞」は、心筋や骨などに分化できることがわかっています。 多くの可能性を有することから、「多能性幹細胞」とも呼ばれています。

従来、心臓を構成している心筋細胞は、一度死んだら二度と再生することはないと考えられてきましたが、 近年、心筋細胞や心臓の血管は骨髄から骨髄幹細胞が動員されて、ゆっくりと生まれ変わっていることが確認されました。 さらに、心臓が病的な状態になっても、骨髄幹細胞による心臓の修復が起こることがわかってきました。 また、心臓には「心筋幹細胞」「心筋前駆細胞」が存在する、といった報告もあります。

心筋細胞同様、神経系の細胞も、一度損傷を受けると再生はできないと、長い間考えられていましたが、 神経細胞の元になる「神経幹細胞」が脳内に発見され、神経細胞も再生することがわかってきました。


●ES細胞の夢と課題

ES細胞は、いくらでも増殖し、あらゆるタイプの細胞に分化可能と考えられています。 動物での研究を経て、1998年、世界で初めて人間のES細胞の培養が成功しました。 血液から皮膚、臓器、骨、さらに神経細胞まで、あらゆるものに展開し得る細胞を、 人体の外で研究したり操作したりすることができるようになった、という、夢のような出来事でした。
しかし、ES細胞を培養するには、入れ物である胚を壊して、細胞の塊を取り出さなければならない。 つまり、そのまま子宮の中に戻せば胎児、そして人間になるはずのものを破壊している、ともいえます。 「受精の瞬間から命が宿る」と考えるキリスト教文化圏を中心に、「これは人の命を殺すことに等しい」という強い批判が起きました。 ただ、通常ES細胞には、不妊治療に伴って行われる人工授精でできた受精卵のうち、体内に戻されずに冷凍保存されたもの(余剰胚)が用いられます。 子宮に戻されない余剰胚は最終的に破棄されるため、「命を殺すことにはならない」という立場をとる人たちもいます。 結局、世界的には反対が多いものの、先進国では研究が進められてきています。