夜間頻尿

加齢に伴い、夜間に何度もトイレに起きるようになる夜間頻尿に悩む人が増えています。 また、夜間頻尿に悩んでいる人は、高齢になるほど高くなります。 夜間頻尿が続くと、慢性的な睡眠不足になり、生活に支障を来すことも少なくありません。 年のせいと諦めず、原因に合った治療を行って、改善していくことが大切です。


■「夜間頻尿」とは?

就寝中に、排尿のために3回以上起きる状態

夜中に何回もトイレに行きたくなって目が覚める夜間頻尿に悩む人は、加齢に伴って増えてきます。 以前は「前立腺肥大症」の初期の症状として、男性に多いと考えられていました。 しかし、最近は女性にもよく見られることから、男女を問わず、高齢者に多いことがわかりました。 実際には、夜中に3回以上尿意を感じて起きる場合に、夜間頻尿だとされます。 夜間頻尿が続くと、慢性的な睡眠不足となります。 すると、日中にぼんやりして、集中力が低下するなど、日常生活に支障を来すことも少なくありません。 また、夜中にトイレに行くことで、転倒する危険性も増えてしまいます。 夜間頻尿に悩んでいる場合は、早めに泌尿器科やかかりつけ医などを受診しましょう。 原因に対して適切な治療を受けることが、生活の質の改善に繋がります。

夜間の排尿をコントロールする仕組み


■夜間頻尿の原因

「夜間多尿」「膀胱容量の減少」「睡眠障害」の3タイプに分けられる

夜間頻尿の原因は、「夜間多尿」「膀胱容量の減少」「睡眠障害」の3タイプに分けられます。 3つのタイプが同時に起こる場合もあります。

●夜間多尿(夜間の尿量が増える)

夜間に作られる尿量が多くなるのが、「夜間多尿」です。 尿は本来、夜間よりも日中に多く作られ、寝ている間は「抗利尿ホルモン」の働きで、尿を作る量が減ります。 しかし、加齢に伴って、排尿を妨げる抗利尿ホルモンの分泌が低下すると、寝ている間に作られる尿の量が増え、夜間に排尿する必要が生じてしまいます。 心臓や腎臓の機能が低下して下半身に水分が溜まってむくむことも夜間頻尿の原因になります。 横になると、下半身に溜まっていた水分が心臓や腎臓に戻って排泄されるため、尿量が増えるのです。 他にも背景に「糖尿病」や「尿崩症(抗利尿ホルモンの分泌低下や機能低下によって、尿量が増える病気)」など、他の病気が隠れている場合もあります。 また、寝る前に大量の水分を摂ることが習慣になっていたり、塩分の摂り過ぎで喉が渇きやすくなるために、水分を摂り過ぎて尿量が増えている人もいます。


●膀胱容量の減少(膀胱が小さくなる)

腎臓で作られた尿は一旦膀胱に溜められます。 膀胱は、個人差はありますが、通常250~300ml程度の尿を溜めることができます。 しかし、膀胱は筋肉でできていますが、加齢に伴って筋肉組織のしなやかさが失われると、膀胱はあまり広がらなくなってしまいます。 そのため、膀胱の容量が減少すると、少し尿が溜まっただけで尿意を感じるようになるため、頻尿になってしまうのです。 夜間多尿の場合は夜だけ頻尿になるのに対し、膀胱容量の減少が原因の場合は、昼も夜も頻尿になるのが特徴です。 膀胱容量が減る原因としては、主に2つ挙げられます。 1つは、「前立腺肥大症」などの病気によって尿道が閉塞し、 膀胱からの尿の排出がうまくいかなくなるタイプです。膀胱内に尿が残るため、膀胱容量が減少します。 もう1つのタイプは、膀胱の筋肉が何らかの原因で過剰に収縮し、少ししか膀胱に尿が溜まっていないのに 尿意を催す「過活動膀胱」です。 頻尿になるほか、突然尿意を感じて、トイレに間に合わない感覚(尿意切迫感)があったり、 尿漏れ(「女性の尿漏れ」「男性の尿漏れ」の原因にもなります。 稀にですが、膀胱の腫瘍によって膀胱容量が減少していることもあります。


●睡眠障害

「睡眠時無呼吸症候群」などの睡眠障害があると、 眠りが浅くなり、夜間に起きる回数が増えます。すると、眠りが浅いため起きているのに、本人は尿意で目覚めたと錯覚してしまうのです。 また、眠りが浅いと抗利尿ホルモンが分泌されにくくなるため、尿の量が増えて夜間頻尿が起こりやすくなります。


●その他

このように、夜間頻尿の原因はさまざまで、原因によって治療法も異なります。 気になる症状があるときには、泌尿器科やかかりつけ医などを受診して、原因を調べ、適切な治療を受けることが大切です。


■夜間頻尿の原因を調べるには

排尿の状態を記録する「排尿日誌」が役立つ

●検査

医療機関では次のような検査が行われます。

▼画像検査
超音波検査、エックス線検査、内視鏡検査などで、膀胱や尿道の形や状態、腫瘍の有無などを調べます。 エックス線検査は、通常、尿道から造影剤を注入して行われます。 内視鏡検査では、「膀胱鏡」という内視鏡を尿道から膀胱内に送り込み、膀胱や尿道の状態を見ます。

▼尿検査
尿を採取して、白血球や赤血球、細菌、癌細胞などの有無を調べます。 また、腎疾患、尿路感染症、糖尿病など、夜間頻尿の原因となる病気の有無を調べます。

▼尿流測定
測定装置の付いた便器に向かって排尿し、尿量や勢い、排尿にかかった時間などを測定します。

▼残尿測定
超音波検査で、排尿後に膀胱内に残った尿の量を測定します。

●排尿日誌

夜間頻尿を治療するためには、まずは原因を明らかにする必要があります。 そのために大切なのが、患者自身が排尿の状態を記録する「排尿日誌」です。 排尿するたびに、尿量を量り、排尿した時刻と尿量を記録していきます。 排尿日誌をつけて、毎日の排尿の状態を客観的に見ることで、医師が夜間頻尿のタイプを見極めるのに役立ちます。 排尿日誌には、トイレに行った時刻、排尿量、尿漏れや尿意切迫感、 排尿時の不快感の有無、食事や飲み物で摂取した水分などを記録します。


●夜間頻尿のタイプの判定

夜間頻尿のタイプは、夜間の尿量と、1回の尿量から推測されます。 睡眠中の尿量と朝起きてすぐの尿量を足した夜間の尿量が、1日の尿量の35%以上の場合は夜間多尿が、 1回の尿量が常に200ml未満の場合は膀胱容量の減少が疑われます。


排尿記録の付け方の例


■夜間頻尿の治療

夜間頻尿の治療は、タイプに合わせて薬物療法などが行われます。


●夜間多尿の場合

▼生活の工夫
治療の中心となるのは、生活改善です。それによって、夜間の排尿回数が半減したというデータもあります。 夕食後は、緑茶、紅茶、コーヒーなどの利尿作用のある飲み物は控えましょう。 ただし、水分摂取量を減らし過ぎると、腎機能の低下や尿路感染症、熱中症などが起こる可能性があります。 適切な量を摂取することを心がけてください。 また、心臓病や高血圧などの循環器の病気によってむくみが起こり、その水分が夜間に尿となって排出されているケースがあります。 その場合、昼寝の習慣がある人では、昼寝のときに足を少し高くして眠るようにすると、 起きた後に尿が出やすくなり、夜間の尿量を抑えることができます。 また、適度な運動を行うこともお勧めします。特に夕方から夜にかけて散歩などの運動を行うと、 下半身に溜まった水分を心臓に戻すことができ、夜間の尿量を減らすのに役立ちます。 余った水分を汗として排泄するのも効果的だとされています。

▼薬物療法
「利尿薬」を午後の早い時期に服用し、就寝前に排尿しておくことで、夜間の尿量を抑えます。 膀胱の緊張を緩和する作用のある「抗不安薬」が使われることもあります。

▼弾性ストッキング
循環器の病気などによって足のむくみがある場合、医師の指導の下、下肢を圧迫する医療用の「弾性ストッキング」を着用することで、 むくみを防ぎ、夜間の尿量を減らすことができます。

●尿道の閉塞で膀胱容量が減少している場合

前立腺肥大症が原因の場合は、「α遮断薬」などの薬による治療や、尿道の閉塞を改善する手術などが行われます。

◆過活動膀胱で膀胱容量が減少している場合

▼薬物療法
基本的には薬物療法が行われます。使用するのは抗コリン薬やβ3作動薬です。 抗コリン薬は、膀胱が収縮するのを抑える働きを持っています。 副作用として、口の渇きや便秘などが起こることがあります。 β3作動薬は、膀胱の筋肉を緩める作用があります。 そのため、膀胱に溜められる尿の量が増えます。 副作用が少ないのが特徴ですが、稀に心臓などに影響が出るため、重篤な不整脈がある人は使えません。

▼骨盤底筋体操
過活動膀胱では、尿漏れを伴うことが少なくありません。 尿漏れの改善には、「骨盤底筋体操」が効果的です。

●睡眠障害の治療

「睡眠時無呼吸症候群」に対しては、 CPAPという鼻に着けるマスクによる治療が行われます。 鼻から気道に空気を送り、睡眠中に気道が塞がったり狭くなったりしないようにします。 その他の睡眠障害に対しては、生活改善と併せて、作用時間の短い睡眠薬の使用も考慮します。