前立腺肥大症

「尿が出にくい」「勢いがない」「途中で途切れる」「残尿感がある」などの排尿の悩み、 40歳を超えた男性なら経験した方も多いはず・・・・・。 これらは、「前立腺肥大」によって尿道や膀胱が圧迫されて起こる症状の一部です。 前立腺は、男性の膀胱の出口に尿道を包むように存在し、精液の液体成分の一部を分泌する器官です。 前立腺に良性のこぶが出来て肥大化し、排尿障害を起こす病気を、前立腺肥大症といいます。 ただし、前立腺が肥大していても尿トラブルが起こらないこともあり、その場合は「前立腺肥大症」とはみなされません。 また、肥大の程度と症状の強さは、必ずしも比例しません。 前立腺が肥大する原因はまだ明らかになっていませんが、加齢によるホルモンバランスの変化が関係していると考えられています。
熟年以降の男性に発生し、高齢化や食生活の欧米化に伴い、高脂質・高動物性たんぱく質の食事が増えたことも、肥大の一因といわれています。 「前立腺癌」とともに日本でも年々増加している疾患です。 症状が進むと、尿失禁(尿を漏らす)や、尿閉(尿が出ない)、腎不全、尿毒症を起こすこともあります。 高齢の男性に尿トラブルが起きる原因の多くは、前立腺肥大症です。 前立腺肥大症は、薬物療法などで改善することが可能なので、尿トラブルを”年のせい”とあきらめず、まずかかりつけ医に相談してみましょう。


■前立腺肥大症とは?

前立腺が大きくなって、尿の通り道を圧迫する

「前立腺」は、膀胱の出口に位置し、その中心を尿道が通っています。 男性特有の生殖器官で、精液の一部になる「前立腺液」を分泌し、精子の運動能力を高めたり、 精子を保護したりしています。 形や大きさは健康な若い人では栗の実ほどの大きさで、重さは健康な成人男性で約20gです。 前立腺は前立腺液を分泌する働き以外に、前立腺の筋肉などで排尿や射精をコントロールする働きもしています。

男性は、中年期を過ぎる頃から、尿トラブルがある人が増えてきます。 尿トラブルを起こす主な前立腺の病気には「前立腺肥大症」「前立腺癌」「前立腺炎」などがありますが、 多くの場合、尿トラブルの原因となっているのは「前立腺肥大症」です。 前立腺は、尿道の周囲の「内線」と、前立腺液を作る「外線」という2つの領域に大きく分けられ、 前立腺肥大症は、内線に小さなしこりのようなものができ、 それが徐々に大きくなって尿道を圧迫し、尿トラブルを引き起こす病気です。

前立腺肥大症は、加齢に伴って前立腺が肥大して、膀胱の出口部分の尿道が圧迫され、 「尿の出が悪い」「頻尿」「残尿感」などの排尿・蓄尿障害が現れる病気です。 こうした症状が現れると、「前立腺肥大症」と診断されます。 肥大が進行すると、尿が出きらずに膀胱にたまる「残尿」が増え、 尿が出なくなる「尿閉」を起こすこともあります。 症状が現れる仕組みは、大きく分けて、肥大した前立腺による「機械的閉塞」と、 排尿にかかわる筋肉の収縮による「機能的閉塞」の2つがあります。

前立腺の肥大は加齢とともに進み、60歳の男性では50%以上に、85歳までには約90%の男性に前立腺の肥大がみられます。 そのうち、400万人程度が尿トラブルに悩んでいるといわれています。 前立腺肥大の原因は加齢で、それ以外に体質や生活習慣も関係するといわれています。 基本的には、前立腺肥大症はそれ自体が命を脅かす病気ではないので、治療は患者の自覚症状を重視し、 I-ISSなどによる重症度の判定を基本に、日常生活での差し障りや患者の希望などに応じて選択します。


【男性の排尿の仕組み】
尿をためる”蓄尿機能”と尿を排出する”排尿機能”は、主に膀胱と前立腺が担っています。 さらに、膀胱の筋肉、膀胱の出口にある「内尿道括約筋」、前立腺の下にある「外尿道括約筋」、 前立腺の筋肉がそれぞれ協調して、排尿をコントロールしています。 膀胱に尿をためるときは、膀胱の筋肉が緩んで広がります。その一方で、尿道括約筋(内尿道括約筋、 外尿道括約筋)や前立腺の筋肉は収縮し、尿が漏れるのを防ぎます。 膀胱にたまった尿が一定の量を超えると、今度は尿を排出しようとして膀胱が収縮します。 それと同時に、尿道括約筋前立腺の筋肉が緩み、尿が尿道を通って排出されます。


■前立腺肥大症の進行と症状

前立腺は、多くの場合、30歳頃から大きくなり始め、70歳頃まで肥大し続けるといわれています。 一般に、前立腺肥大症の進行と症状は肥大の程度と症状によって大きく第1期~第3期に分けられます。

●前立腺肥大症の進行と症状

一般に、前立腺肥大症の進行と症状は、肥大の程度と症状によって大きく第1期~第3期に分けられます。

▼第1期(刺激期)
肥大した前立腺が尿道や膀胱を圧迫して刺激し、「トイレが近い(頻尿)」「夜間頻尿」「突然尿意が起こり、 トイレに間に合わない感じがする(尿意切迫感)」などの畜尿障害や「尿が途切れる」などの排尿障害の症状が現れます。 特に、夜間に頻尿になるケースが多く見られます。このほか、尿道や股間の不快感、圧迫感などを訴える人もいます。

▼第2期(残尿発生期)
第1期の症状が強くなります。また、尿道が前立腺に圧迫されて狭くなり、一度に出せる尿の量が減って、 排尿時間が長くなるとともに、「尿が出にくい、勢いが弱い」「いきまないと排尿できない」などの症状も起こります。 膀胱にたまった尿を出し切れなくなり、「残尿感」も現れます。 急に尿が出なくなる「急性尿閉」が起こることもあります。

▼第3期(慢性尿閉期)
自分ではほとんど尿を出せない状態が続く「慢性尿閉」になります。 また、膀胱の筋肉が厚く硬く変化し、弾力が失われて、膀胱内の尿を排出できなくなります。 すると、膀胱の容量を超えた分の尿が、ダラダラと絶えず漏れ出るようになります(溢流性尿失禁)。 さらに、腎臓から尿道に至る尿の通り道(尿路)全体に影響が及んで 「腎不全」「尿路感染症」「膀胱結石」などを起こす危険性も出てきます。

●急性尿閉

前立腺の肥大が進行すると、突然尿が出なくなる「急性尿閉」が起こることがあります。 特にお酒を飲んだり、長時間座っているときなどは、前立腺がうっ血して起こりやすくなります。 また、一部の風邪薬や胃薬、抗うつ剤などには、膀胱の収縮を抑える成分が含まれているものがあります。 前立腺肥大症のある人がこうした薬を飲むと、急性尿閉を招くことがあるため、事前に医師や薬剤師に 相談してください。急性尿閉が起こると、下腹部に非常に強い痛みが生じます。 すぐに医療機関を受診して、適切な処置を受ける必要があります。


■日常生活の注意

姿勢などに気をつけて骨盤内の血行悪化を防ぐ

骨盤内の血行が悪くなると、症状が現れやすくなります。日常生活で骨盤内の血行悪化を防ぐことが、 症状の悪化防止につながります。 お酒の飲みすぎは、骨盤内の血行を悪化させるので注意しましょう。 また、風邪薬や鎮痛薬などの薬の服用がきっかけで、尿閉が起こることがあります。 他の病気で受診した場合は、担当医に前立腺肥大があることを必ず伝えましょう。 長時間座り続ける場合も、骨盤内の血行を悪化させます。 長時間のドライブやマージャンなどには、十分注意してください。