食物繊維

食物繊維には多くの種類がありますが、大きく分けると、 水に対する溶解性からこれに可溶な「水溶性食物繊維」と不溶な「不溶性食物繊維」の2つの種類に分類することができます。

■食物繊維とは?

水溶性食物繊維と不溶性食物繊維がある

「食物繊維」とは、人の消化酵素で消化されない食物中の成分の総称で、 腸内の発癌物質など有害物質を排出、腸内をきれいにし、善玉菌を増やし、 免疫細胞であるリンパ球を活性化して免疫力を高める作用があるといわれています。 また、腸を活発にさせるので便秘の予防・改善にも有効に働きます。 食物繊維は種類が多く、それぞれに働きが違うので多種類の食品から摂取した方が効果的です。 「日本人の食事摂取基準」において「食物繊維」は、 『人の消化酵素で消化されない食物中の 難消化性成分の総称』と定義されており、 主に植物細胞壁の構造成分からなる難消化性の多糖類やリグニンなどが含まれますが、 キチン、キトサンなどの動物性のものやポロデキストロースなどの合成多糖類も含まれます。 食物繊維には多くの種類がありますが、大きく分けると2つの種類に分類されます。 水に対する溶解性からこれに可溶な「水溶性食物繊維」と不溶な「不溶性食物繊維」に分類され、 化学的には同じであっても、物理的性質はかなり異なっており、このことが生理作用の違いに関係しています。


●食物繊維の分類と含有食品

水溶性食物繊維(soluble dietary fiber:SDF) は、水への親和性が強い食物繊維で、植物細胞内の非構造多糖類のペクチン、ガム質や海藻多糖類が含まれ、 合成食品添加物であるポリデキストロースも水溶性食物繊維に分類されます。 一方、水に溶解しにくい不溶性食物繊維(insoluble dietary fiber:IDF)は、植物細胞壁の構造成分で、 セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどが含まれ、動物性由来のキチンやキトサンもこの範疇に入ります。 食物繊維摂取量の約80%は、不溶性食物繊維で、その大部分をセルロースが占めます。

  名称 多く含む食品
不溶性食物繊維(IDF)
セルロース 穀類、野菜、豆類
ヘミセルロース 穀類、ふすま、豆類
リグニン ココア、野菜
キチン 甲殻類の外皮
水溶性食物繊維(SDF)
ペクチン 果物、野菜
グアガム グア豆
コンニャクマンナン コンニャクイモ
寒天 テングサ
アルギン酸 褐藻類
コンドロイチン硫酸 軟骨、魚肉
ポリデキストロース 飲料、菓子

水溶性食物繊維は、たとえばコンブやワカメなどの海藻に多い食物繊維で、水に溶けると粘り気が増し、水分を吸収すれば膨らむという性質があります。 そのため胃の中で滞留する時間が長く、食べたものの消化吸収のスピードを遅くします。 その結果、余分な糖質やコレステロールが吸収されるのを防ぎ、 高血糖高脂血症を防ぐ働きがあります。 一方の不溶性食物繊維は、キャベツなどの野菜やイモ類に多い食物繊維で、水分を吸収すると数倍から数十倍にも膨張し、腸壁を刺激して腸の働きを活発にします。 そのため、便のかさを増やして便秘を解消したり、体内に発生した発癌物質や老廃物を排泄したりする働きのあることがわかっています。

日本人は第二次世界大戦直後までは、毎日の食事から大量の食物繊維を摂っていました。 なぜなら、野菜や豆類、海藻類などの食物繊維が豊富な「和食」を食べてきたからです。 ところが戦後になって食事が欧米化すると肉食中心になり、高脂肪の食事を食べる人が増えていきました。 すると、戦後50年で食物繊維の摂取量は、半分近くに激減してしまったのです。 厚生労働省は、食物繊維の1日あたりの摂取量の目安を20~25gと推奨しています。 実際、戦後間もない1951年(昭和26年)ころの日本人は、平均して1日24gの食物繊維を摂っていました。 しかし、2000年(平成12年)の国民栄養調査によると14.3gまで激減しており、さらに、平成16年の調査によれば、 30~40代の人の食物繊維の摂取量はわずか12~13gしかありません。 つまり、食物繊維の摂取量が減るのと反比例するように、糖尿病などの病気が増えているのです。 このことからも、食物繊維がいかに重要な栄養かがわかります。


■食物繊維を十分摂るには?

野菜や海藻の多食が肝心で、特に「寒天」がお勧め

食物繊維不足を防ぐには、まず何よりも食生活を和食中心に切り替えることが肝心です。 和食には食物繊維の豊富な食材がふんだんに使われているからです。 特に、食物繊維の宝庫といわれる野菜や海藻、穀類は和食の伝統的な食材で、積極的に摂りたい食材です。 それに加えて、お勧めなのが日本で昔から食べられてきた伝統食品の「寒天」。 寒天は、テングサなどの紅藻類(赤色の海藻)が原料で、その溶液をろ過すると、凝固してトコロテンができます。 このトコロテンを脱水・凍結・乾燥させたものが寒天です。 寒天はその成分の8割が食物繊維という、いわば食物繊維の塊のような食品です。 寒天4g中にゴボウ1本分の食物繊維が含まれています。 特に水溶性食物繊維が豊富で、水分を吸収すると膨張して、余分な糖質や脂質・発癌物質などの有害物質を吸着し、体外に排泄してくれます。 また、寒天に含まれる「アガロース」という成分は、体内で「アガロオリゴ糖」という成分に分解され、抗癌作用を発揮することがわかっています。

ところで、寒天といっても角型をした棒寒天や乾麺のような糸寒天などの種類があります。 でも棒寒天や糸寒天は、食べる際に水に浸すといった下処理が必要になります。 寒天を毎日食べるとなれば、こうした下処理を行うのは面倒でしょう。 そこで、お勧めしたいのが「粉寒天」の利用です。 粉寒天は、棒寒天や糸寒天を精製し、より純粋な寒天成分を取り出して、粉末に加工したものです。 最近では、スーパーやネットなどで市販されているため、入手も簡単です。 この粉寒天を毎日無理なく摂るために最適なのが「粉寒天入り緑茶」。 寒天は85~95℃で固体から液体に変化し、35~40℃で冷えて固まるという性質があります。 そのため、粉寒天を摂るためには、熱い飲み物に混ぜて飲むのが最適なのです。 緑茶に含まれる渋み成分の カテキンには、糖質の吸収を遅らせたり、体脂肪を燃焼させたりする働きがあります。 また、粉寒天は無味無臭のため、緑茶に入れても緑茶の風味は損なわないため、手軽に食物繊維を摂ることができるでしょう。


■水溶性食物繊維

コレステロールをはじめとする脂質の吸収を低下させる

「水溶性食物繊維」は、水に溶解するという特徴から、いくつかの物理化学的性質とそれに伴う生理作用を発揮します。 ペクチンやグアガムなどの水溶性食物繊維は高い保水性を示し、膨潤することで食品の容量を増大させて満腹感を与え、食べすぎを防止します。 ペクチン、グアガム、コンニャクマンナン、アルギン酸ナトリウムなどの水溶性食物繊維は粘性の高い溶液を形成しますが、 粘性が増すにしたがってグルコースやコレステロールの拡散が抑えられて、それらの小腸からの吸収が抑制されあるいは緩慢になります。 また、アルギン酸ナトリウム塩やカリウム塩などの水溶性食物繊維は陽イオン交換能を有していることから、ミネラルの吸収や利用に影響を与えます。 ペクチンやグアガムなどの水溶性食物繊維は非イオン性の吸着作用を有し、 不溶性食物繊維のリグニンよりは弱いものの、胆汁酸とはかなり結合して胆汁酸の再吸収を抑制します。 その結果、コレステロールをはじめとする脂質の吸収を低下させます。

「水溶性食物繊維」のもうひとつの大きな特徴は、大腸内で腸内細菌による発酵を受けて、酢酸、酪酸、 プロピオン酸などの短鎖脂肪酸を生成することや、炭酸ガス、水素ガス、メタンガスなどに代謝されることです。 水溶性食物繊維から生成された短鎖脂肪酸やガスは腸内のphを低下させることで、 胆汁酸やコレステロールから発癌性物質を産生する腸内細菌の繁殖を抑えて、 大腸癌の発症を抑制する可能性があります。 また、短鎖脂肪酸の一部は、大腸から吸収されてエネルギー源として利用されます。 水溶性食物繊維は、その発酵分解性の違いに基づいて、エネルギー値が0~2kcal/gとして取り扱われています。


●水溶性食物繊維とメタボリックシンドローム

近年、栄養過剰や運動不足などの食生活や生活スタイルの変化が原因と考えられる肥満者の割合が、急速に増加しています。 肥満によって 内臓脂肪が蓄積すると、その内臓脂肪から糖や脂質代謝異常、 血圧上昇だけでなく、動脈硬化を直接引き起こす アディポサイトカインが異常分泌することで 『メタボリックシンドローム』を発症します。 「メタボリックシンドローム」の定義は、2005年4月に日本内科学会をはじめとする8学会から発表され、 その基準は男性のウェスト周囲が85cm以上、女性では90cm以上で内臓脂肪蓄積を必須項目とし、 それに加えて、高トリグリセリド血症かつ/または低HDL-コレステロール血症、高血圧、空腹時高血糖の3項目のうち2項目以上であるとしています。 内臓脂肪の蓄積した一個人が脂質代謝異常、高血圧、糖尿病などの疾患を2つ以上重複して発症していることが、 動脈硬化の強い危険因子であることが明らかになっています。 メタボリックシンドロームの背景には、わが国の生活習慣の欧米化の進展が大きくかかわっていることから、 生活習慣、とくに食生活の改善がその予防と治療にきわめて重要です。 内臓脂肪蓄積の解消、脂質代謝改善、高血圧改善、糖代謝改善を導く食品成分の積極的な摂取が必要だと考えられます。


●水溶性食物繊維のメタボリックシンドローム改善・予防効果

食物繊維に富んだ食事は容量が多くなり、咀嚼時間が長くなることで唾液や胃液の分泌量が増え、結果として食塊の容量が増大します。 特に、水溶性食物繊維は膨潤することで内容物のカサが増え、粘性を増して、内容物の胃内滞留時間を長くすることによって、 食物の過剰摂取を抑制して肥満を防止します。 高い粘性を有する水溶性食物繊維は、小腸からの脂質の拡散を抑制して吸収を抑えます。 また、水溶性食物繊維は脂質の吸収に必須の成分である胆汁酸と結合し、 胆汁酸の回腸からの再吸収を阻害して脂質の吸収を抑制することで血中脂質濃度を低下させます。 さらに、水溶性食物繊維が大腸で発酵を受けて生成した短鎖脂肪酸のプロピリオン酸が、 血清コレステロール濃度を低下させることが報告されています。 つまり、水溶性食物繊維はこのような作用によって脂質代謝異常を改善すると考えられます。 さらに、水溶性食物繊維の高い粘性は小腸からのグルコース吸収を緩慢にし、食後血糖の上昇を抑え、 インスリン分泌を節約して、糖尿病の予防や軽減に効果を発揮することがわかっています。 水溶性食物繊維のアルギン酸は、陽イオン交換反応により血圧上昇作用のあるナトリウムと腸内で結合して ナトリウムの排泄を促進し、血圧上昇抑制作用のある カリウムの吸収を促進することで血圧上昇を抑制します。

このように、水溶性食物繊維はメタボリックシンドロームすべての症状の改善や予防に効果を発揮する可能性があり、 メタボリックシンドローム予防の救世主となりうる食品成分と考えられ日常的な十分量の摂取が望まれます。


●水溶性食物繊維を摂るうえでの留意点

「水溶性食物繊維」は、種類によりその生理作用が異なっているので、特にサプリメントとして摂取するような場合には、 期待する効果を考慮したうえで、含有する成分を確認して摂取することが必要となります。 しかし、水溶性食物繊維を含めて1~2種類のみの食物繊維成分をサプリメントとして大量に長期間摂取した場合には、 大腸癌の危険因子となることが指摘されています。 ビタミンやミネラルを豊富に含んだ高食物繊維素材と、特定の食物繊維だけを添加したサプリメントを摂取するのとは、 本質的に異なったものであると理解する必要があります。 事実、難消化性オリゴ糖のような大腸で発酵しやすい水溶性食物繊維を添加した食品を大量に摂取した場合に、緩下作用を誘発することがあります。 しかし、通常の食品として食物繊維を大量に摂取した場合に、重篤な緩下作用は報告されていません。 一般の食材には水溶性と不溶性の多くの種類の食物繊維が含まれており、 それらが関連して複雑に作用することで、ヒトの健康に良い効果を発揮していると考えられます。 したがって、私たちは、一般の食材から積極的に食物繊維を摂取するように心がけ、 不足している分をサプリメントなどで補うような摂り方が推奨されています。

日本人の1日当たりの平均食物繊維摂取量は、1950年代には20gを超えていましたが、その後漸減し、現在では15~16g程度であると推定されています。 「日本人の食事摂取基準」において、1日の目標量は成人男性で20~21g、女性で17~18gとされています。 現在の日本人の食物繊維摂取量が目標量をかなり下回っていることや水溶性食物繊維の健康に対する機能性を考慮すると、 水溶性食物繊維を含めた食物繊維全般の摂取量を積極的に増やすことが望まれ、 そのことがメタボリックシンドロームを予防することに繋がると考えられます。 食物繊維摂取量が十分であれば、形のしっかりとした便が水中に浮きます。 メタボリックシンドローム予防のために毎朝トイレで便の状態をチェックしましょう。