痛みのない心筋梗塞

命に関わることもある「心筋梗塞」は、発作時に締め付けられるような胸の痛みが特徴です。 しかし近年、心筋梗塞が起こっても痛みが現れず、気づいたときには心臓の機能が大きく低下しているケースが増えています。


■「痛みのない心筋梗塞」とは?

心筋梗塞特有の痛みが現れないケースが増加している

心筋梗塞の発作は、「締め付けられるような胸の痛み」が特徴ですが、 実は胸の痛みがなくても心筋梗塞が起きている場合があります。 痛みがないと発症に気づかず、処置が遅れ、その分、死亡率も高くなります。 こうした「痛みのない心筋梗塞」が最近増えています。

心臓は「心筋」という筋肉でできており、血液を全身に送り出しています。 この心筋に酸素と栄養を送っているのが「冠動脈」です。心筋梗塞はこの冠動脈が詰まることで起こります。 健康な冠動脈では血液がスムーズに流れていますが、血管の内壁に血液中のコレステロールなどが入り込んで 粥状の塊(アテローム)ができると、血管が狭くなります(動脈硬化)。すると、血液が十分に流れなくなり、 心臓にいく酸素や栄養が足りなくなって、心筋梗塞の前段階である「狭心症」が現れます。 アテロームの表面が破れると、そこに血小板が集まり、「血栓(血の塊)」ができます。 血栓で冠動脈が塞がれると、その先への血流が途絶え、心筋が壊死してしまいます。これが「心筋梗塞」です。 血液の流れが悪くなると、胸の中心部などに激しい痛みを感じます。”今まで経験したことのない不快な痛み” とも表現され、時には冷や汗を伴います。狭心症の場合、痛みは数分から15分程度で治まるのが一般的で、 15分以上続く場合は心筋梗塞が疑われます。しかし、知覚神経の障害などがあると、痛みを感じない場合もあるのです。

●なぜ痛みを感じないのか

糖尿病や加齢によって知覚神経が鈍くなるのが原因

通常の心筋梗塞であれば、痛みで発症に気づいて循環器科などを受診し、治療が行われます。 しかし痛みが現れないと、知らない間に心臓の機能が低下する「心不全」を起こしてしまいます。 安静にしていても「息切れ」「呼吸困難」「吐き気」「強い疲労感」が現れるといった心不全の症状で、 初めて発症に気づくこともあります。 痛みを感じない主な原因は、糖尿病や加齢によって知覚神経が鈍くなることとされています。 糖尿病で高血糖の状態が続くと、細い血管が障害されて、神経細胞に栄養が行かず、神経に障害が起きます。 また、加齢に伴い、運動機能などが低下するのと同様、痛みに対する感受性も徐々に鈍ってくるため、 痛みを感じにくくなります。


●痛みのない心筋梗塞に気づくには

特に糖尿病のある人や高齢の人は、定期的な心電図検査を欠かさない

痛みのない心筋梗塞は、検査以外では早めに気づくことができません。 糖尿病のある人、高齢の人などは、年1回は「心電図検査」を受けて、前年と変化がないか確認することが大切です。 心電図検査で異常や変化があった場合は、運動中や運動前後の心電図を記録する「運動負荷試験」を行います。 併せて、超音波で心臓の動きや大きさなどを調べる「心エコー検査」、携帯型の記録器で24時間心電図を記録する 「ホルター心電図検査」などを行うこともあります。

これらの検査で心筋梗塞が疑われる場合は、放射性医薬品を注射して心筋の状態を特殊なカメラで写す 「心筋シンチグラフィー」で、心筋の血流の状態を調べます。 最新型のCT(コンピュータ断層撮影)である「MDCT」による検査が行われることもあります。 約8秒間息を止めるだけで、動いている心臓を輪切りにした画像を撮影することができ、 立体的な像で血管の狭窄個所を確認できます。 心筋梗塞と診断されると、治療方針決定のために「カテーテル検査」を行います。 手首や脚の付け根から直径約2mmの細い管(カテーテル)を冠動脈に入れ、造影剤を用いてエックス線撮影を行い、 冠動脈の内側の状態を調べます。ただし、腎臓の機能の悪い人は造影剤を使用できないため、 MDCTやカテーテル検査ではなく、心筋シンチグラフィーで対応します。

糖尿病は進行しないと症状が現れないため、糖尿病自体に気づいていない人も少なくありません。 健康診断を受けていない人は、血液検査を受け、糖尿病の有無を調べることから始めましょう。