心筋梗塞

心筋梗塞は動脈硬化が引き起こす”死の病”

心筋梗塞とは、かつては心臓麻痺や急性心不全などとも呼ばれた、突然心臓が止まって死に至る病の一つです。 日本では、心筋梗塞によって毎年15~20万人もの命が失われています。 発症の主な要因は、動脈硬化であることがわかっています。 その予防のための「4つのカギ」「8つのサイン」について説明します。


■生活習慣の改善で、心筋梗塞を予防

心筋梗塞とは、動脈硬化などによって狭められた冠動脈に血栓などが詰まって、心臓の筋肉に血液が行き渡らなくなってしまう病気です。 血液が届かなくなってしまった部分の細胞は壊死。心臓全体が大きなダメージを受け、発症者の30~40%が死に至るという恐ろしい病気です。 近年、発症メカニズムの解明が進み、動脈硬化と深い関わりがあることがわかりました。 心筋梗塞の発症を防ぐには、動脈硬化の進行を遅らせることが最善の策といわれています。

動脈硬化は、血管(動脈)が加齢によって硬くなり、弾力性が失われたり、 血管の壁にコレステロールなどの脂質が沈着して、 血液が通るスペースが狭くなったりすることで、血液がスムーズに流れにくくなる病気です。 誰もがかかる疾患ですが、タバコを吸っている人は禁煙を、 脂っこい料理よりはあっさりとした料理を食べ、適度に運動し、 十分睡眠をとるなど、日常の生活習慣を改善することで進行を抑制することはできます。 まず、下のMedical Checkであなたの動脈硬化度をチェックして、心配な数値に達していたら、特に注意が必要です。 12~2月にかけての寒い季節は心筋梗塞の危険シーズン。いつ襲ってくるかわからない死の病は、日常生活のちょっとした心掛けや工夫で遠ざけることができます。 次ページ以降に述べる「4つのカギ」「8つのサイン」が、動脈硬化が進んだあなたを心筋梗塞から守ってくれるはずです。


●Medical Check:動脈硬化度チェック

生活習慣に関する項目(各1点)

01.ラーメンなどの麺類は汁も全部飲み干す
02.魚より肉をよく食べる
03.天ぷらや唐揚げなど、揚げ物が好きでよく食べる
04.ほぼ毎日アルコールを飲む
05.夜遅く食事をして、すぐに寝てしまうことも多い
06.食事をするスピードが他人よりも早いと思う
07.階段よりエレベーターを利用しがち
08.運動不足で太っている
09.睡眠時間が6時間未満
10.行列に並んだり、人に待たされたりすることが苦手
11.物事を完璧にしないと気が済まない
12.家族に心筋梗塞など、心臓病の人がいる

より危険度の高い項目項目(各3点)

13.タバコを吸っている
14.血圧の上が140mmHg、下が90mmHg以上
15.血糖値が126mg/dL以上
16.LDLコレステロールが140mg/dL以上、またはHDLコレステロールが40mg/dL以下

01~12の生活習慣に関する項目にチェックが入った場合は各1点、13~16のより危険度の高い項目に該当する場合は各3点で カウントし、合計点が10点を超えた人は「レッドカルテ」。 特に13~16は一つでも当てはまれば、心筋梗塞発症の危険性が高い状態にあると認識しましょう。


■心筋梗塞の発症を未然に防ぐ4つのカギ

●暖かい日が続いた後の急に冷え込んだ日は要注意

心筋梗塞は、夏に比べ、圧倒的に冬に発症することが多い病気です。
動脈硬化が進んだ人には、冬の寒さ、特に急な冷え込みが、発症の引き金になる可能性があります。

◆気象情報のチェックが心筋梗塞のリスクを下げる

温かい場所から急に寒い場所に移動すると、人は体温の低下を防ごうとするため、条件反射的に鳥肌が立って、血管は収縮。 それによって血圧が上昇します。これは心臓にとって大きなストレスです。 これを冬季の数日間に置き換えてみましょう。厳しい冷え込みが続く真冬にも時折、寒さが緩むぽかぽか陽気の日が訪れます。 しかし暖かい日が続くのはせいぜい2~3日。大陸から強い寒気を伴った高気圧が東に進み、寒冷前線が列島を通過。 西高東低の冬型の気圧配置となり、一転して気温も急降下。再び日本列島は寒気に包まれます。 寒冷前線の通過による急激な温度変化は、短時間での温度変化と同様に、心臓に負担を強いることになります。 動脈硬化が進んだ人にとっては、毎冬何度も繰り返される温度差攻撃は、大きな心筋梗塞リスクとなっているのです。 毎日の気象情報をチェックして、特に寒冷前線が通過した直後は、軽装での外出や屋外運動を避け、心筋梗塞から命を守りましょう。


●布団の中と寝室・トイレ・・・家の中の危険な温度差!

マンションや近年建てられた気密性の高い住宅に比べ、築年数のたった伝統的な日本家屋は通気性がよく、冬や室内でも危険なほどに温度が下がってしまいます。

◆心筋梗塞の引き金となる家の中にある「温度差」

急激な「温度差」が心筋梗塞の大きなリスクになっていることは、疑う余地がありません。 寒冷前線が通過して気温が急降下するという気象条件からも、また暖房の効いた部屋から寒い廊下やトイレへ頻繁に行き来しなければならない住環境面でも、 私たちの体は冬には、夏よりも大きな温度差にさらされます。 この「温度差」をいかに縮めるかが、心筋梗塞から命を守るうえでのカギとなります。 日本の場合、欧米に比べセントラルヒーティングの普及率が低く、石油ストーブやファンヒーター、エアコンなどで部屋ごとに暖める暖房が一般的です。 特に伝統的な日本家屋ではその傾向が顕著です。 当然部屋ごとの温度差は大きく、暖房の効いた室温20℃ほどの部屋と、暖房をしていない廊下やトイレとでは20℃近くも温度差が生じることも珍しくなく、 心筋梗塞発症の大きなリスクとなっています。 さらに、深夜に布団の中からトイレへ行く行為などは、計り知れない危険性を伴っていると認識しましょう。 心筋梗塞から命を守るためには、家屋内の温度差ができる限りなく小さくなるような暖房プランの見直しと、 布団の中から出る際もちょっとした運動をするなどの努力が必要です。

◇布団の中とトイレの温度差は何と30℃

気温が夜中には30℃~3℃ほどまで下がる真冬の日本。しかし、就寝中の布団の中の温度は体温に近い30℃台半ばです。 暖房の切れた寝室は10℃未満に下がり、そこからさらに寒いトイレへ。その温度差は何と30℃近くに。 その温度差から心臓を守るには、いきなり布団の中から飛び起きないこと。 布団の中で体をゆすって心拍数を上げてから、ゆっくりと立ち上がり、必ず上着を羽織ってトイレに向かってください。


●入浴中の死亡者数は年間1万7000人!リスクを下げる40℃入浴!

日本式入浴法は、日本人の長寿の秘訣といわれています。 しかし、欧米に比べ、入浴中の死亡者数も非常に多く、主な死因は心筋梗塞や 脳卒中などの発症によるものと考えられます。

◆ちょっと熱めの43℃が最も危険な温度

東京都健康長寿医療センターの調査によると、2011年の1年間に入浴中に亡くなった人の数はおよそ1万7000人。 死因の大多数は、心筋梗塞や脳卒中などの循環器系疾患の発作による水死であると考えられます。 しかも、冬季は夏の10倍にも達し、特に12~2月の数値は突出しています。 とはいっても、真冬の入浴がすべて危険というわけではありません。 心筋梗塞や脳卒中の発症数が極端に多くなる”危険な湯の温度”が、さまざまな実験や統計で判明しているからです。 その温度とは、ちょっと熱めの43℃。湯温40℃と43℃での入浴時の血圧、心拍数、血液の粘度などを比べる実験では、 すべてにおいて43℃の方が危険な数値を記録し、心臓に負担がかかっています。 つまり、43℃での入浴を避ければ、心筋梗塞は高い確率で回避できる可能性があります。 40~41℃での入浴が最も体に良いと奨められます。 40~41℃の湯なら、入浴前と入浴直後、入浴中の血圧、心拍数、血液の粘度にほとんど変化が起こりません。 それでも、熱めのお湯じゃないと入った気がしないという人も、いきなり熱めの湯に入ることはせず、 最初は40~41℃で入浴し、湯温を徐々に好みの温度まで上げていきましょう。

◇理想的な入浴手順
  • ヒーターなどをつけて、脱衣所を居間などと同じぐらいの室温にしておきましょう。
  • 浴室内も、湯船のふたを開け、熱いシャワーなどを撒いて十分に暖めておきましょう。
  • お風呂に入る前に家族に「これから入るよ」と声をかけましょう。
  • いきなり熱めのお湯に入るのは危険です。お湯の温度は40~41℃を守り、どんなに気持ちよくても長湯は禁物です。

●衣類は命を守る大きな武器!外出着はクロー値で決めよう!

心筋梗塞の発作が起こるのは屋内とは限りません。いうまでもなく真冬の屋外は最も危険な場所です。 あなたの外出時の服装は、外気温からしっかり命を守ってくれるでしょうか?

◆真冬の外出着の目安はクロー値2.0以上

衣類には、”体温を保つ”という大きな役割があります。暑い夏には薄着、寒い冬には厚着をして体温の安定を補助してきました。 どの程度の気温のときにどんな衣類を身につければいいのでしょうか。 衣類には「クロー値」という保温力を示す指標があることを知っていますか? 肌着やインナー、アウターなどのすべての衣類は、それを身につけることによってどれだけ体温を保つ効果が得られるかを計算することができ、 その計算から得られる値がクロー値です。その日の気象条件などによって外出時に最適なクロー値は異なりますが、 おおむね気温0℃のときは着ている服の合計クロー値が2.30以上、気温5℃のときは1.80以上を目安に選びましょう。 また、体温が逃げやすい首周りをマフラーやストールなどでガードすると、クロー値以上の効果が得られます。 ただし、衣類のタグなどにクロー値は表示されていないので、お店で聞いたり、インターネットで調べておくと便利です。 またしたの表も参考にしてください。


◇主な衣類のクロー値



衣類 クロー値
主なショーツ 0.02
ブラジャー 0.01
キャミソール 0.04
パンスト 0.03
靴下 0.02
レギンス 0.20
厚手のタイツ 0.30
半袖シャツ 0.20
長袖シャツ 0.30
セーター 0.32
パーカー 0.46
チノパン 0.22
ジーンズ 0.22
ジャンパー 0.60
ダウンジャケット 0.71
コート 0.72
毛皮コート 0.80
マフラー 0.07
手袋 0.02
ニット帽 0.02
ブーツ 0.06


■心筋梗塞の発症を未然に防ぐ8つのサイン

心筋梗塞の発症を未然に防ぐサインには、①冷や汗、②吐き気、③胸の痛み、④喉がゼイゼイ鳴る、⑤左肩の痛み、 ⑥奥歯の痛み、⑦左手小指の痛み、⑧EDの8つの症状が知られています。


●発症を知らせる8つのサインを見逃すな

心筋梗塞から身を守るには、まず、心筋梗塞にかからないような体を作ること。 生活習慣を改め、動脈硬化や高血圧症にならないように努めることが何より大事です。 次に、心筋梗塞の発症リスクを回避すること。もちろん定期的な健康診断も重要です。 それでも病はちょっとした隙間を見つけて忍び寄ってきます。 心筋梗塞を発症の直前で食い止める最後の砦が、発症のサイン(前兆)を見逃さないことです。 ただし、すべての発症者にサインがあるわけではなく、約半数は全く前兆なしに心筋梗塞を発症しているのも事実です。 一般的に心筋梗塞のサインとしては、①冷や汗、②吐き気、③胸の痛み、④喉がゼイゼイ鳴る、⑤左肩の痛み、 ⑥奥歯の痛み、⑦左手小指の痛み、⑧EDの8つの症状が知られています。 動脈硬化や高血圧などのリスクを抱え、①~⑧を自覚したら、直ちに病院を受診しましょう。

1.冷や汗
冷や汗は、冠動脈が血栓で詰まり、心筋梗塞が始まる直前の典型的な自覚症状の一つです。 もちろん、冷や汗は風邪や発熱などでも現れますから、冷や汗=心筋梗塞とは言えませんが、 他のサインと重なって現れた場合は心筋梗塞を疑いましょう。

2.吐き気・むかつき
吐き気や胸のむかつきも心筋梗塞の典型的なサインの一つです。 吐き気やむかつきもまた、心筋梗塞に限って現れる症状ではないので、即、心筋梗塞と結びつけて考えるのは困難ですが、 他のサインと重なって現れた場合は心筋梗塞が始まっていると考えられます。

3.胸の痛み
心筋梗塞が発症すると風邪に強烈な痛みが走ることが知られていますが、その前兆としても、突然胸やみぞおちに 圧迫されるような痛みが走ることがあります。痛みが激しい場合は、他の病気による症状であっても、 救急車を呼ぶなどの対応が必要です。

4.喉がゼイゼイ
風邪や気管支系の病気でもないのに、胸が痛くなり、急に冷や汗が出て、吐き気やむかつきに襲われ、喉がゼイゼイ鳴る場合は、 心筋梗塞が疑われます。直ちに救急車を呼ぶなどの対処が必要となります。

5.左肩の痛み
心臓から、左肩や左上腕など放射状に広がる体の部分も、しばしば痛くなることがあります。 しかし、心筋梗塞に由来する左肩の痛みは、あくまで胸の痛みから派生する痛みなので、 左肩や左上腕の単独の痛みの場合は心筋梗塞を疑う必要はありません。

6.奥歯の痛み
基本的に歯だけが痛む場合は心筋梗塞ではありません。 胸の痛みが脳に伝わる過程で、歯や下あごの痛みを伝える神経と混線して脳が歯の痛みと勘違いしてしまうようです。 このような痛みは「関連痛」と呼ばれており、心筋梗塞のサインの一つとされています。

7.左手小指の痛み
心筋梗塞の前兆として、左手の小指が痛んだり、痺れたりすることがあります。 これも関連痛の一つで、心筋梗塞に由来する痛みの場合は必ず胸の痛みが伴います。 胸の痛みが伴わない場合は、外科的な要因や神経系の要因が考えられます。

8.ED
EDとは勃起不全のこと。心筋梗塞の意外なサインの一つとされています。 EDは糖尿病患者がよく発症する病気ですが、糖尿病を患っていて、しかもEDの症状が現れた場合は 心筋梗塞の発症が疑われます。緊急性は低いので、病院で相談することを勧めます。

●心筋梗塞は食べ物でも予防できる

適度な運動とストレスを溜めない努力も重要

動脈硬化は男性が40歳過ぎから、女性は55歳くらいから発症するケースが多くなっています。 男女差があるのは男女の肉体の違いですが、発症する前、特に男性はそれまでの働き盛りのときに食事や睡眠などで 不規則な生活を送っていた人が発症するケースが多く見受けられます。 そのためにも、心筋梗塞につながる動脈硬化を持つ人は、普段の日常生活が大切です。 動脈硬化には血圧、コレステロールを高めるものは大敵で、辛い物、塩分の多いもの、高カロリーなものなどは 避けるようにしてください。反対に低カロリーで栄養要素が豊富な野菜、青魚などはお勧めです。 その他、カリウム、マグネシウム、カルシウムの多い食品も血圧を上げない効果があります。 運動も急激に体を動かすようなものではなく、全身を緩やかに使うようなウォーキングなどが最適です。 逆にストレッチのように一気に力を入れるような運動は避けてください。 また、ストレスがると血圧が上がり、心筋梗塞につながる不整脈になる原因にもなります。