冠攣縮性狭心症

冠攣縮性狭心症』は日本人に多く、日本人の狭心症の約半数がこのタイプだと考えられています。 特徴は、夜中から明け方にかけての就寝中など、安静時に発作が起こりやすいことです。


■冠攣縮性狭心症の特徴

『冠攣縮性狭心症』は日本人に多く、日本人の狭心症の約半数がこのタイプだと考えられています。 「れん縮」とは、痙攣によって血管が収縮する、という意味です。 特徴は、夜中から明け方にかけての就寝中など、安静時に発作が起こりやすいことです。 早朝には、寒さや喫煙、あるいは洗面などのちょっとした動作でも症状が現れることがありますが、 日中になると、多少激しく動いても、症状はあまり出ません。 ところが、発作の回数が増えるにしたがって、昼間にも発作が起きるようになります。 負担のかかる動作をしたときや、怒ったり驚いたりしたときにも、発作が誘発されるようになります。 このように悪化してきたら、血栓ができやすく心筋梗塞に移行しやすい、危険な状態にあるといえます。


■冠攣縮性狭心症の痙攣が起こる仕組み

冠動脈の痙攣には、血管壁の内皮の障害が深くかかわっています。 内皮は、血管の収縮・拡張を調節したり、血栓や炎症を抑えるなど、血管を正常に保つ役割を担っています。 こうした役割を果たすのに欠かせないのが「一酸化窒素」という物質です。 血管が健康だと、内皮から一酸化窒素が分泌されます。 また、自律神経から放出された「アセチルコリン」という物質が内皮に働きかけて、 一酸化窒素の分泌を促します。そして、一酸化窒素が血管を拡張させます。

ところが、血管壁の内皮が傷んでいると、一酸化窒素の分泌が減ります。 すると、アセチルコリンは内皮の下にある「平滑筋」という血管の筋肉を刺激して、血管を収縮させてしまいます。 その結果、血管が過剰に収縮して、痙攣が引き起こされるのです。 内皮の障害のほとんどは、動脈硬化によるものです。 すなわち、冠攣縮性狭心症には、動脈硬化が深く関係しているといえます。 また、血管の痙攣自体も、血管を傷つける原因にまります。

この他、血管の炎症や「カルシウムイオン」などさまざまな要素が冠動脈の痙攣に関係していると考えられています。

●狭心症発作は「レム睡眠」のときに起こる

人間の睡眠は、眠りの浅い「レム睡眠」と眠りの深い「ノンレム睡眠」を繰り返しています。 血管の痙攣は前者のレム睡眠時に起こりやすいといわれています。 血管の収縮や拡張には、「交感神経」と「副交感神経」という2種類の自律神経が関係していますが、 レム睡眠時には、この2つの働きが激しく入れ替わるため、発作が起きやすいと考えられているのです。


■冠攣縮性狭心症の危険因子

冠攣縮性狭心症を招きやすい危険因子として、「加齢」「遺伝」があります。 年齢を重ねるごとに起きやすくなり、性別では男性に多く見られますが、女性も閉経を過ぎると発症しやすくなります。 また、一酸化窒素を作る酵素に関係するDNAに変異がある場合、冠攣縮性狭心症になりやすいことがわかっています。

●動脈硬化を進めるものも危険因子に

この病気の背景には、動脈硬化があります。 したがって、「肥満」や「高血圧、高脂血症、糖尿病」などの生活習慣病があると、発症しやすくなります。 これらの危険因子が重なった「メタボリックシンドローム」は、 まさに、冠攣縮性狭心症を起こしやすい状態といえます。 日常生活における非常に重要な危険因子が「喫煙」です。 喫煙は血管を収縮させると同時に、活性酸素を発生させ、一酸化窒素の分泌を抑えてしまいます。 また、「ストレス」も一酸化窒素の分泌を抑えてしまうため、やはり大きな危険因子になります。

【関連項目】:『ストレス解消』 / 『禁煙』


■冠攣縮性狭心症の検査と診断

冠攣縮性狭心症の発作は、就寝中に起こりやすいため、医療機関で行われる短時間の心電図検査では、 異常を見つけにくいのが実情です。そこで、問診などで冠攣縮性狭心症が疑われる場合は、 携帯型の「ホルター心電計」を装着して、就寝中を含めた24時間の心電図を記録します。 厳密に診断するには、「冠動脈造影法」という画像検査を行い、 微量のアセチルコリンなどを冠動脈に注入して、痙攣が起こるかどうかを観察します。 冠動脈の痙攣は、狭心症発作の治療薬である「ニトログリセリン」によって鎮まるのが特徴です。 そこで、それを前提条件として、次の項目のうちどれか1つが当てはまった場合に、 冠攣縮性狭心症と診断してほぼ間違いないと考えられます。

  • 安静時に発作が起こる
  • 心電図のST波が異常を示す
  • 朝や夜間に発作が起き、昼間は起きない
  • 過呼吸によって発作が誘発されやすい
  • 「カルシウム拮抗薬」は効果的だが、「β遮断薬」では効果が得られない

■冠攣縮性狭心症の治療と予防

発作が起きたときには、ニトログリセリンなどの「硝酸薬」を使って治めます。 ニトログリセリンには、舌下錠や口中に噴霧するスプレー薬などがあります。 また、発作を防ぐ目的で「カルシウム拮抗薬」が継続的に用いられます。 また、コレステロール値を下げる「スタンチン」「アンジオテンシンⅡ受容体薬」 などの降圧薬も効果が期待されており、現在臨床試験が行われています。

●危険因子を取り除くことが冠攣縮性狭心症の最善の予防法

冠攣縮性狭心症は、お年寄りや糖尿病の患者では、自覚症状がない場合が多く、 就寝中に突然死する危険性もあります。まずは発症を防ぐことが大切です。 最も重要なのは、危険因子を取り除くことです。肥満や高血圧などの生活習慣病がある人は、 食事療法や運動療法を行い、きちんとコントロールするようにします。 適度な運動は、血管を刺激して一酸化窒素の分泌を促すので、日頃から体を動かすことが大切です。 喫煙者は、今すぐに禁煙してください。また、ストレスはため込まず、なるべく早く解消するように気をつけて、 心臓の健康を守りましょう。

【関連項目】:『禁煙』 / 『運動不足解消』 / 『ストレス解消』


■冠動脈に動脈硬化が起こりやすい理由

動脈は全身に張り巡らされていますが、冠動脈には動脈硬化性の病気が起こりやすいのです。 これはなぜかというと、実は冠動脈には、他の動脈とまったく異なっている点があるからです。 他の動脈は、血液は一方的にだけ流れ、特別なことがない限り、逆流することはありません。 ところが冠動脈は、心臓が収縮するのと同時に、冠動脈自身も心臓の筋肉で圧迫されるため、 血流が止まったり逆流したりして、乱流が起こりやすくなっています。 乱流があると一酸化窒素が分泌されにくく、痙攣が起こりやすくなる、というわけです。 一般に、痙攣は冠動脈全体で起こりますが、特に血管が枝分かれしている部位では、 血液の乱流が起きやすいため、血管が強く痙攣します。