アイビス

以前から行われてきた、電気刺激を利用するリハビリに加えて 「アイビス」と呼ばれる新しいタイプの電気刺激装置が注目されています。 アイビスは、筋肉への弱くなった電気信号を拾い、筋肉を動かすことができる強さにまで増幅して筋肉に伝えます。 アイビスによって動かしたい筋肉を繰り返し動かすことで、 脳から動かしたい筋肉への電気信号が増幅され、動かしやすくなることがあります。 アイビスには、使用が適する場合と適さない場合があり、適する場合でも効果には個人差があります。 一般に、麻痺が比較的軽い人や脳卒中の発症から間もない人などは、効果が期待できるといえます。


■「アイビス」とは?

電気刺激装置を使ったリハビリ

「脳卒中」などが起こると、その後遺症で手や足に麻痺が残ることがあります。 麻痺の回復にはリハビリテーションが重要で、その方法はさまざまです。 現在、医療現場では電気を使ったいろいろな装置がリハビリテーションで活用されています。 例えば、「低周波電気刺激装置」は、麻痺のある部位に一定期間、一定量の電気を流して筋肉を刺激します。 「電気刺激装置」は、電流によって発生した磁気を頭に当てて、頭蓋骨越しに脳の表面を覆っている「大脳皮質」 を刺激するものです。そして、最近注目されているのが「筋電制御刺激装置」という新しい装置で、 通称「IVES(アイビス)」と呼ばれています。一部の医療機関では、2008年から使用されています。


●アイビスの働き

弱くなった信号を増幅して、動かしたい筋肉を動かす

体を動かすとき、脳からは”動け”という指令が、動かしたい筋肉に送られます。 指令は、電気信号として神経を通り、筋肉に伝えられます。 それによって、筋肉が収縮して体を動かします。

◆麻痺がある状態とは?

脳が障害を受けると、電気信号を伝える神経も障害されます。 すると、電気信号が弱くなったり、神経のネットワークが混乱して別の筋肉に電気信号が伝わったりします。 その結果、動かしたい筋肉が動きにくい、動かないなどの麻痺となって現れます。

◆アイビスを使用すると

アイビスは、筋肉への弱くなった電気信号を拾い、筋肉を動かすことができる強さにまで増幅して筋肉に伝えます。 アイビスによって動かしたい筋肉を繰り返し動かすことで、脳から動かしたい筋肉への電気信号が増幅され、 動かしやすくなることがあります。混乱していた神経のネットワークも、徐々に消滅したり、 電気信号が動かしたい筋肉へと伝わるように整理されていきます。


●アイビスの使用目的と方法

アイビスを外しても、ある程度同じ動きができる状態を目指す

筋肉や神経が鍛えられて、アイビスを使わなくてもある程度動くようになれば、アイビスを使用せずに リハビリテーションを継続します。そして、さらなる回復を目指します。 また、アイビスを使って思い通り体を動かすことは、リハビリテーションを続ける意欲の向上にもつながります。

◆どのように使用するのか?

この装置は、主に手のリハビリテーションを目的として使用します。 手に用いる場合は、動かしたい筋肉の上に、プラスとマイナス、感電しないように電気を逃がす「アース」 の3つの電極を貼り付けて、電源を入れた状態で動かします。 一般に、アイビスを使用したリハビリテーションは、1ヶ月ほど集中して試します。 アイビスは入院して使うほか、自宅で使用することも可能です。 ただし、医療機関にある専用の装置で、電気信号を拾う感度や増強する強さを患者さんの状態にあった 適切なレベルに調整していく必要があります。そのため、自宅で使用する場合も、定期的な受診が欠かせません。 また、電極を決まった位置に正しく貼ることを学ぶ必要があります。


●アイビスの対象と効果

筋肉への電気信号がある人や麻痺が比較的軽い人などが対象

アイビスには、使用が適する場合と適さない場合があり、適する場合でも効果には個人差があります。 一般に、麻痺が比較的軽い人や脳卒中の発症から間もない人などは、効果が期待できるといえます。 脳卒中の場合、リハビリテーション自体に、発症後180日以内までは健康保険が適用されます。 もちろん、この期間であれば、アイビスを使ったリハビリテーションにも健康保険が適用されます。 しかし、アイビスは市販化されて間もないので、治療が受けられる医療機関が非常に限られています。 通常、こうした治療は、リハビリテーションに特化した医療機関で行われているので、 アイビスを使ったりリハビリテーションを希望する場合は、近くのリハビリテーションを専門とする医療機関で 相談してください。現在、アイビス以外にも、障害のある患者さんの要望に応えられるように さまざまな装置の研究、開発が進められています。アイビスは、麻痺の回復を目的として開発されましたが、 1人でも多くの患者さんの麻痺を改善するためにも、今後の普及が期待されます。